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「ねえ、透明人間って足跡があると思う?」
香織は恋人の晴喜に尋ねた。
「香織って、たまに突拍子もないことを聞くよね」
くすくす笑いながら考える晴喜。久しぶりにゆっくりと会えた週末。土曜の夜ディナーを楽しんだ後、晴喜の家に泊まり、日曜のブランチを取っている二人。
香織は昨日、分かってしまった。この穏やかで優しい恋人は、浮気をしている。
厳密に言うと、他に好きな女性が出来た疑いがあるということだ。
「うーん、よく映画とかだと包帯とかにぐるぐる巻きになっているよね。包帯が汚れたら足跡がつくのかなぁ。あとペンキとかついたら足跡見えるかもね。わかった!見せようと思えば見せれるし、見えないようにもできる。どう?合ってる?」
晴喜は、なぞなぞか何かだと思ったらしい。
香織は特に答えを用意していたわけではない。
「そうね……正解かな」
心ここに在らずな様子の香織に対して、仕事で疲れているのだと思っている晴喜は逆にテンションを上げて話す。
「やったー!カオちゃん、ご褒美のぎゅう!」
そう言って抱きついてくる晴喜。しかし、香織はもう、冷めた目でしか見られない。
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