透明人間の足跡

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 昨日、晴喜と久しぶりに抱き合った時、はっきりと感じてしまった違和感。女の勘というより、もっとはっきりとしたもの。 晴喜は、その目に香織を映してはいなかったのだ。香織は苦しいほど顕著に分かってしまい、悲しくて寂しくて、隣に寝ているのに恐ろしいほどの距離を初めて感じた……。  香織は昨年、二十八歳の時に軽い気持ちで婚活を始めた。その時出会ったのが佐藤晴喜(さとうはるき)であった。 その頃、周りがどんどん結婚していく様子に、このままだと自分は出会いがないまま仕事に明け暮れてしまうと焦りを感じていた。 香織は、全国の美術館や博物館にチェーン展開するカフェの会社で商品開発を担当している。 展示企画のものとコラボしたお菓子を発案したり、カフェで出すケーキや軽食の新メニューを考え、全国の店舗に出向き商品化する。 つまり、出張が多いのだ。拠点は東京だが、関西、九州出張は月二、三回あり、その出張前は企画を詰めるのに残業も多い。 新メニューに使う食材を探したり、リサーチのため食べ歩きも多々ある。やりがいを感じ、仕事は楽しんでいるが、恋人になるような異性との出会いはない。   カフェはアルバイトの学生が多いし、開発部は年配の既婚者が殆ど。土日を絡めた出張の代休は平日となり、一般職の休みと合わないことが多い。 それならばと、街コンや知り合いの合コンになるべく参加するようになった。
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