第1章*雪の記憶 春待月

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ゆぅらりと湯気を上げるできたての朝食は、寝起きのアタシの食欲を十分にそそってくる。 「すぐに着替えてくるよ」 言い残して先程通った廊下を戻り、自室へと引っ込んだ。 夜着を脱ぎ、備え付けのタンスを引くと厚手のインナーと白いブラウスに袖を通す。 分厚いダークブラウンのスカートはほどほどに動きやすくて気に入っている。 ブラウスの上からはいつも着ているベストを着れば着替えは完了だ。 舞台に上がる時以外はいたってシンプルなものを好む。 ステージ上のアタシは、自分であって自分ではない。 だからか、街の皆には「昼と夜とでは全然違う」と口を揃えて言われるものだ。 鏡台の前でサッと髪を梳くと、髪を一つに括る。 そして出したままにしてあった白銀の簪を挿す。 しゃれっ気の無いアタシの唯一のお洒落とでも言われそうだが、そうでもなく、単に母親の形見であるそれをつけるのが日課になっているだけのことだった。 身支度を整えて戻ると、タキがカウンターに座って待っていた。 「待たせたね。さぁ食べようか」 普段は人のざわめきと、蝋燭の頼りない灯りの店内だけれど、タキと二人きりだと静かで、そして窓からさす明るい光がどことなく雰囲気を変えていた。 「今日は街に買い出しに出るよ」 「じゃあ荷物持ちに付いていくよ」 「ありがとう。食べたら出ようか」 「あぁ」 「帰ってくる頃にジェイムズとマリィが来るだろう。そしたら音を合わせようか」 「了解した」 食事をしながら今日の予定を組み立てる。 「うん、今日のご飯も美味しいね」 ありがとう、と礼を言うと、はにかむように笑うに留めた。
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