第1章*雪の記憶 旅客者

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ステージの近くに、子供たちも見える様にとテーブルを組んだ頃には、寒い寒いと言いながら、店の中へと客がやってくる。 たまに街の外からの客もあるものだけれど、およそどの顔も見知っているものだ。 やがて陽が落ちる頃にはすっかりと賑わいを見せていた。 「今日も大盛況ですねぇ、カレンさん」 「ありがたいことだね。さ、ハンナ。これをよろしく!」 「はい!」 従業員はお運びに飲み物を作るハンナとマリィ、それに厨房のジェイムズと少なく、けれども客自身が勝手知ったるように動くものだから大して困ったことはない。 強いて言うなら、演奏家が辞めてしまったことでアタシが踊る曲が少なくなったというくらいだ。 アタシは店の奥の居住スペースへと向かい、動きやすさ重視の格好からステージ衣装へと着替えを済ませる。 王都から外れた港町のしがない飲み屋のステージ。 それがアタシの最高の舞台だ。 * 外の寒さなど感じさせない熱気が店内にこもっている。 それを心地よく感じながらアタシはステージの上からぐるりと店内を見回した。 客が酒を片手にアタシを見つめている。 レイの子供たちもきらきらと瞳を輝かせてアタシを見上げている。 子供心に綺麗なドレスは心ときめかせるものがあるのかもしれない。 やんやと野次を飛ばす客に目配せをして口角を上げると、ひゅう、と口笛が吹かれてやがて静かになる。 うずうずと見守る客を後目に、静かになった店内を改めて一瞥し、アタシはタン!とヒールを鳴らした。 軽やかなステップ、大きく見せる手の動き。 そしてアタシの唇は歌を紡ぐ。 この街に古くから伝わる恋歌。 “赤魔女の恋” 客たちが続くように歌うのでそれに任せてアタシは歌をやめて踊ることに集中した。 客は陽気に歌いながらもアタシの躍りを熱心に見ている。 その視線を感じながら、お世辞にも上手いとは言えないけれども心地の良い歌に合わせて、赤と黒の華やかなフリルのドレスを翻し、長いスカートの裾を蹴り上げる。 赤い魔女、赤い魔女 妹残して何処へ行く 白い魔女、白い魔女 赤い姉様探し出せず 祈り託して踊り踊る 赤い魔女、赤い魔女 月夜の下で恋をした 獣の男と恋をした 白い魔女、白い魔女 姉が残した灯火が 燃え移らぬよう踊り踊る 赤い魔女、赤い魔女 彼女の熱い恋心 月夜の晩に燃えるのさ 赤い魔女、赤い魔女 獣に恋した魔女の歌 赤い魔女の恋の歌
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