第1章*雪の記憶 旅客者

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「おぉ、カレン!さっきの踊り良かったぞ~」 彼と話していると、酒に気分を良くしたのか顔を赤く染めた客が陽気に声をかけてくる。 「ありがとう!」 店内の喧騒に負けじとお礼の声を上げると、満足げに笑い、また連れと酒を飲み交わしている。 アタシは見慣れた光景に、慣れた仕草で店内を一望するとどうやらみんなすっかり出来上がった様子で、もうあと1時間もすればお開きになるだろう頃合いが見て取れた。 この街の人々は皆、信心深く、深夜を回って外出すると災禍に見舞われると信じているため、店の開くのも早く閉まるのも早いのだ。 彼はその光景をゆったりとした笑みで見つめながら酒を飲んでいる。 アタシはもう一度彼と向き合い、自分でも珍しいと思える言葉を口にした。 「いつまでこの街にいるんだい?」 「まだ決めかねてはいるけれど……、しばらくはここにいるつもりだ」 「そうかい。まぁ気に入ってくれたのならゆっくりして行きなよ、旅の人」 「あぁ、ありがとう。そうするよ。……この街は、居心地がいい」 その言葉に満足すると、にっこりと笑う。 口にはしないが、小さな小さなこのやり取りだけでアタシはまだ名も知らない彼を信に値すると感じていた。 その瞳には裏がない。 紡がれる言葉の全てが真実ではないかもしれないけれど、信用できるものと出来ないものとの線引きはできるつもりだ。 自惚れか、ただの馬鹿と言われればそれは仕方がないと思いはするけれど。 彼が言った『この街は、居心地がいい』という言葉はアタシの想いを汲んでくれるような言葉だった。
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