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第1章*雪の記憶 春待月
タキと過ごす日々は穏やかだった。
古くて建付けの悪くなっているところを見つけては雪深くなる前にと、大工仕事をしてみせたり、買い物に行くにも荷物を持ってくれたり。
「ここの扉が開けにくくなってるみたいだ。修繕しても良いだろうか?」なんて、初めこそおずおずとといった様子だったが、1日2日ですぐに慣れ、今では「ここの修繕しておいたよ」などと、事後報告の事もある。
慣れてくれるのも、過ごしやすくなるのも大歓迎なので今はありがたく享受している。
初めこそ、ステージを盛り上げてくれるだけで十分だと話したこともあった。
事実、タキが加わってからのステージは、それはそれは盛り上ったものだ。
タキの初ステージとなったのはあの夜の次の日のこと。
その日も雪が降っていたけれど、タキの腕はどんなものかと興味半分でやって来た客たちで店は賑わっていた。
自負していた通りにタキの音楽は一級品で、興味半分の客たちを唸らせた。
それからと言うもの、雪が深くなるにつれて鈍るだろうと思っていた客足も思っていたほどではなく皆がタキのギターと歌を待ち望んでいるようだった。
演奏をしてくれるだけで十分仕事をしてくれていると伝えてはみたけれど、アタシの想いはいつも笑顔で交わされ、結局細々とした雑用から食事の世話までしてくれている。
朝食に力仕事、些細な用事にも文句を言うことなく、むしろ自ら積極的に働いてくれるので、今ではアタシから頼み事をする事も増えた。
そうしてもらったほうが落ち着く、と言うものだからタキの性分なのだろう。
なのでもう今は何も言わない。
してもらった事に、ただ感謝の気持ちだけを伝えるのだ。
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