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「澄香、この家にあるもので、何か欲しいものがあったら、形見分けにもらって帰りなさい」
片付けの手を休めることなく、母が言った。
私たちは、先週亡くなった祖父の家を片付けている。
まだ着られそうな衣類は、親戚の中で欲しい人に形見分けとしてもらってもらい、少しくたびれたものは処分するために、どんどん袋に詰めていく。
大好きだった祖父。
いつも穏やかで優しかった。
母の弟が転勤で家を出てから、ずっと一人で暮らしていた。
幸い、私たちは、ここから1㎞程のところに住んでいるから、子供の頃はよく遊びに来たけれど、それも私が大きくなるにつれて、だんだんと間遠になり、私も用がなければ訪れなくなっていた。
もっと会いに行けばよかった。
もっといろんな話をすればよかった。
いくら後悔しても、もう取り返しが付かない。
いろいろ整理していく中で、私は本棚の奥にずらりと並んだ日記帳を見つけた。
約60年分の日記。
そこには、私が祖父に聞けなかった祖父の人生が詰まっている。
「お母さん、私、これが欲しい」
私は、祖父の日記の束を抱えて言った。
「ああ、そういえば、おじいちゃん、日記書いてたわね」
母は懐かしそうに、パラパラと日記をめくる。
「いいわよ。おじいちゃんも澄香が持っててくれたら、きっと喜ぶでしょ?」
私たちは、1日がかりて家を片付けたけれど、まだ終わらない。
続きはまた後日にすることにして、祖父の家を後にした。
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