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1週間後、私はスマホのナビを頼りに、手紙の住所へと向かった。
うちから、2㎞ほど離れたそこは、想像以上に大きくて、古い日本家屋だった。
こんな大きな家のお嬢さんだったから、家の言うなりに結婚しなきゃいけなかったのかな。
私は、山岸という表札を確認して、格子戸傍のインターホンのチャイムを押そうとしたけれど、ふと気になって手を止めた。
冨樫?
山岸という古い表札と並んで、新しい木彫りの表札が掲げられている。
それ自体は、別に気にするほどのことじゃない。
ただ、そこに掘られているのが、私の好きな人と同じ苗字だったから、私は固まってしまった。
そんな偶然、ある?
いえ、たまたま同じ苗字なだけかもしれない。
それに、仮にそうだったとしても、彼が家にいるとは限らないし、いても私のことを覚えていなければ、手紙を渡してそのままおいとますればいい。
私はそう覚悟を決めて、チャイムを押した。
「はい、山岸でございます。どちら様でしょうか」
インターホンから、女性の声で応答がある。
「遠矢 澄香と申します。こちらに山岸 澄子さんはいらっしゃいますか?」
私が答えると、インターホンの向こうでわずかに無言の時間が流れた。
「……どういったご用件でしょう?」
見知らぬ訪問者に警戒してるのかな?
「実は、先日亡くなった祖父の遺品を整理していたところ、こちらの山岸様宛の手紙が出て参りましたので、ご迷惑を承知で届けに伺いました。差出人の祖父の名は、武田 真吉と申します。覚えていらっしゃらないかもしれませんが」
私は事の詳細を説明する。
「確認して参りますので、少々お待ちくださいませ」
とても丁寧な喋り方。
大きなお屋敷だし、家政婦さんとかなのかな?
えっ!?
しばらくして、スーッと古い格子戸が自動で左右に開き始めた。
ガタガタさせないと開かないイメージの古い格子戸が音もなく静かに自動で動いていくことに驚いていると、インターホンから先程の女性の声が聞こえた。
「お待たせいたしました。主人がお会いすると申しております。そのまま中にお進みください。ただ……」
ただ?
なんだろう?
「主人の名は、『すみこ』ではなく、『ちょうこ』と読みますので、ご承知おきください」
あ……
読み方を間違えたんだ!
「申し訳ありません。失礼しました」
「いえ、ではどうぞ」
プツッとインターホンが切れる音がして、沈黙が訪れる。
私は、門をくぐり、石畳を通って家へと向かう。
左右には、見事な日本庭園が広がっていて、由緒正しい家柄なんだろうなと思わせる。
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