第十一章 ハッピー・ホワイトデー

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「植物園、か」 「ここに来ると、心が癒されます」  3月14日。  駿佑は約束通り、聖とデートを楽しんだ。 「温室で、世界の蘭展があってるんです。行きましょう」 「はいはい」  温かく湿度の高い温室には、所狭しと豪華絢爛な花々が美しさを競い合っていた。 「すごい! どれも、きれいですね!」 「こんなにたくさん、種類があるのか」  色も形も様々な蘭は、聖を喜ばせた。  夢中で美しい蘭を見る彼に、駿佑は気軽に声を掛けた。 「そんなに気に入ったのなら、一つ買ってやるぞ」 「え?」  会場の隅で、鉢植えの販売も行われているのだ。  こう言えば喜ぶかと駿佑は思っていたが、聖は考え込んでいる様子だ。 「嬉しいけど、どうしようかな」 「欲しくないのか?」 「蘭は、栽培が難しいんです。花が終わっても、次に咲かせられるかどうか」  珍しいな、と駿佑は聖を覗き込んだ。 「グリーンをあれだけ繁らせることのできる聖が、始める前から諦めるのか?」 「別に、諦めてるわけじゃ」  じゃあ、決まりだ。  駿佑は、販売コーナーへと足を向けた。
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