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第十二章 3月25日、午前2時、勝巳漁港。
夜の歓楽街。
駿佑は、そこを一人で歩いていた。
きらびやかな光に、賑やかな音楽。
派手に着飾った人間に、客引きの大声。
そんな雑踏をかき分け、こちらに進んできたのは、洪隆会の組員たちだ。
彼らは駿佑の姿を見つけると、声を掛けてきた。
「おう。飛沢じゃねえか」
「お疲れ様です、稲垣(いながき)さん」
稲垣は、組の幹部の一人だ。
かなり権力を持っていて、組長に意見することもあるという。
そんな稲垣が、若い者を従えて、駿佑へ親し気に接してきた。
「一人ぼっちで何やってる。一緒に来い。これから、パーティーだ」
「ありがとうございます。しかし……」
駿佑は、小指を立てた。
「今から、コイツと会う約束なんで」
にやり、と稲垣は口の端を上げた。
「さすが色男。今度は、付き合えよ」
「はい、必ず」
駿佑は、稲垣の背中が消えるまで見送った。
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