297人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
「稲垣さんの誘いを断るなんて、すかした奴ですぜ」
「痛い目に遭わせて、思い知らせてやりませんか?」
まあ、そう言うな、と稲垣はそれらの言葉を手で払った。
「まだ若いのに、肝の据わった奴だと思ってる。案外、大化けするかもしれねえぞ」
ざわつく若衆たちを黙らせ、稲垣は息のかかったクラブへ入った。
美容整形と厚化粧で作られたスタッフたちに囲まれ、組員たちは上機嫌だ。
稲垣は、高価なシャンパンの注がれたグラスを傾けながら、駿佑のことを考えていた。
(飛沢。あの妙な落ち着きは、修羅場をくぐってきた人間が持つ貫禄だ)
履歴は白く、背景もないというが、果たして……。
「稲垣さん、カラオケ入れました!」
「十八番、お願いします!」
「あ? ああ、よし歌うか!」
若衆はすでに駿佑のことなど忘れていたし、稲垣も歌など歌っているうちに頭の中から消してしまった。
ただ、駿佑はその間にも、掃除の準備を着々と進めていた。
最初のコメントを投稿しよう!