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歓楽街の中心から、やや離れた料亭。
喧騒から一歩下がった落ち着きが、そこにはあった。
その料亭の一室で、駿佑は一人の男と会っていた。
私服だが、眼光の鋭いこの男は、ここ一帯を取り締まる警部だった。
交わす言葉は無く、ただ静かに二人は料理を食べる。
酒ではなく、茶を飲む。
そして時々、ペンを走らせた。
『3月25日』
駿佑がそう書くと警部はうなずき、その紙片を料理と一緒に食べてしまった。
『午前2時』
警部は、これもうなずき、食べた。
『勝巳(かつみ)漁港』
警部は初めて眉をひそめて顔を上げ、駿佑を見た。
「あんな田舎で?」
「湾が深い漁港です。割と大型船も入れます」
「解った」
警部は、同じように駿佑の書いた紙片を食べてしまった。
「ご苦労だったな。後は、俺に任せてくれ」
情報はすべて頭の中に記憶し、警部は席を立った。
声に出さない、紙片を残さないことは、秘密裏に事を運ぶためだ。
誰に聞かせてもいけない。
誰に見られてもいけない。
そして、誰に知られてもいけない。
警部はそのまま、一人で料亭を出ていった。
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