第一章 掃除人の男

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第一章 掃除人の男

 えっ、と白井 聖(しらい ひじり)は息を呑んだ。 「ミケ、死んじゃったんですか?」  その問いに、老婆は手で口を覆った。  目から、涙をにじませて。 「そう、死んじゃったの。公園にね、お墓を作ってあげたからお参りしてあげて。隅っこに、お花を植えておいたから」  どうしよう。  こういう時、おばあさんに何て声を掛けたらいいんだろう。  まだ高校生の聖には、すぐには思いつかなかった。  ただ、気を落とさないでください、と。  今から、お参りしてきます、と。  それだけ言って、老婆の庭先を後にした。  ミケは、彼女に可愛がられていた野良猫だ。  主に近くの公園を根城にしていたが、気が向いたら老婆の庭へやって来ていた。  手からえさをもらうほどに、懐いていたネコだ。  第二性がオメガである聖は、学校では蔑まれ居場所がなかったため、彼女と共にミケを可愛がっていた。  時には授業を抜け出して、一日中老婆やミケと一緒にいることもあった。  そんな陽だまりのような優しい場所が、一瞬にして壊れたのだ。  すぐには、信じられなかった。  ただふらふらと、公園へ行ってみた。
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