リュンとパン屋さん

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 パン屋の中へと入る前。リュンを抱き上げてガラス越しに中を覗き込む。 「どう、いっぱいおいしそうなのあるでしょう?」 「うん。あのパン、きのうたべたの」 「そう。あ、お店の人が手振ってるよ」  ルルス系の獣人で、真っ黒な毛をもつ。大柄だが愛想があり人懐っこかった。  はじめて会ったのに好感度が持てたこと、彼の持つ雰囲気が柔らかかったこともあり連れてきたのだがどうだろう。  リュンの様子をみれば、怖がることなく手を振っていた。  よかったと胸をなでおろして店の中へと入りリュンを床の上へと下した。すると、男のほうへと駆け寄っていく。 「エメ」 「リュン!」  足にしがみつリュンをエメと呼ばれた男が抱き上げる。 「え、知り合いなの?」 「このパン屋の近くに診療所があるでしょう? そこにパンを届けているんだよ」  そこは獣人と人の子の医師がいる診療所だ。風邪をひいたときにお世話になったことがある。 「そうだったんだね」 「はじめはすごく警戒されちゃったけどね」  リュンが食べているパンを焼いているのがエメだと知ると少しずつ距離が近くなり今では触れても大丈夫になった。 「そっか」  知り合いではあったが一気に二か所も行ける場所が増えた。それは喜ばしい。 「店長、そろそろパンが焼きあがります…………、あ、接客中でしたか失礼しました」  奥から出てきた男と目が合う。ひょろりと背の高い男だ。
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