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《連合政府通知文書・第五百三十八号・戦役歴十一年、九月二十日発行》
・アラスカ、カナダに続いてアメリカが陥落。避難民を乗せた船団が日本へ向けカリフォルニア州・ロングビーチを発つ。統合防衛軍北米支部第七騎兵連隊が脱出船団を守る盾となり全滅。エースパイロット・稲葉空梨が戦死。
†
空梨が死んだ。
戦役歴十一年、十月四日の朝。統合防衛軍東アジア支部有明基地第二大隊居住区兵員宿舎。各部屋に一つずつ支給されるタブレットをルームメイトの涼吾から借り受け、連合政府が発行している通知文書にアクセスした光志は、戦死者リストの中に追加された彼女の名を見た。
空梨が北米支部へ配属になって一年半。専用騎を駆る彼女の活躍はネット上で注目され、世界中の人々に戦う勇気と希望を与えていた。
人類有数の高適性パイロット。その肩書きを証しするかのように、空梨の戦闘能力はずば抜けて高く、彼女とその騎体【ホワイトイーヴィル】が健在である限り、北米諸国は陥落しないだろうと連合政府に言わしめたほどだった。
しかし彼女が所属する北米支部第七騎兵連隊の一年に及ぶ奮戦虚しく戦局は徐々に悪化。
光志は毎日のようにタブレットを覗き込み、空梨の無事を祈ってきた。
縋るように。
乞うように。
だが、この人間界に神はいない。
光志は自分の体にぽっかりと、それこそ【黒い死】の如き大穴が空いたような感覚に見舞われた。
空梨はもう戻らない。
彼女は苦しんだのだろうか。最期になにを思ったのだろうか。
考えれば考えるほど、光志は自分が世界から切り離されていくような気がした。
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