第一章 窮地に咲く花

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  †  搭乗型幻霊装騎(BPF)=【ホワイトイーヴィル】コクピット(通称・聖棺(アーク))内部。 『思念粒子(アストラルライト)残量二十八%。出撃の推奨はしません。回復も充填も不十分です』  若竹色(ライトグリーン)のホログラフィック光学素子から構成されるHUD(ヘッドアップディスプレイ)が、人間二人分ほどの空間を淡く照らしつつ、出力霊体(PA)=サリエルからの思念を文字として表示した。 「それでも構わない。みんなが戦っているのに、ただ見ているだけは嫌なの」  グレーの対Gスーツに身を包んだ、華奢な体躯の少女が答えた。 「こちら戦闘指揮所(CIC)。聞こえるかい?」  C4INSTAR(シークォドルプルインスタ―)が、不入斗博士の声を受信。 「こちらホワイトイーヴィル。感度良好です」 「今、君のバイタルをモニタリングしているけど、搭乗後の心拍数の平均値(アベレージ)がいつもより高めだね? 身体は本当に問題ない?」  博士にそう聞かれ、少女は片手を胸に当て、徐に目を閉じる。 「少し、友人のことを考えていました。そのせいかもしれません」 「マジで無理は厳禁だからね? こっちでヤバイと判断したら、強制射出(ベイルアウト)させるからそのつもりで。それから君への負荷を極力減らすため、【邪視(イーヴィル)】を始め、すべての権能(スキル)の使用時間を半分とする。十秒だ。構わないね?」 「はい、博士。でも大丈夫です。ちゃんと一人で勝ってみせます」  少女は答えると、深く息を吸い、ゆっくり吐き出す。そして、閉じていた目を開いた。 「――もう、誰も死なせない」  その青藍の瞳には、彼女の強い意志が宿っていた。
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