第一章 窮地に咲く花

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 †  十月四日。午前七時十九分、九十九里浜一松海岸。 『こちら二号機! エンジンをやられた! 墜落する!』  唐突にして一瞬だった。悪魔軍迎撃のため、ティルトローター機で移動していた光志たちは、着陸地点到着を目前にして、眩い閃光と(ろう)する爆発で機外へ放り出された。 《緊急事態発生。自動平衡機構(オートバランサー)作動。着地八秒前。対衝撃(ショック)防御》  HMD(ヘッドマウントディスプレイ)人工知能(AI)警告(アラート)が明滅。思念信号(アストラルパルス)式アクチュエーターが光志の思考に連動して【サムライ】の各関節部を動作し、眼下から迫る大地に対して身体を垂直に構えた。  ――着地(インパクト)回転受け身(ダメージコントロール)。  突然の急降下と恐怖から吐き気に見舞われた光志の意思などお構いなしに、背面に組み込まれた処理装置(CPU)騎体(きたい)を自動制御。浜の湿った砂を爆ぜ散らし、光志を墜落死から救う。 《防御円(インテリジェンスループ)損耗率四十五%》  HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に新たな表示。恐らく今の着地の衝撃で、騎体を守るシールドを意味する防御円(インテリジェンスループ)が減衰したのだ。  防御円(インテリジェンスループ)がダメージの多くを受け止めたおかげで、騎体の機能に異常は見られない。思考に連動して意のままに動く各関節部の思念信号(アストラルパルス)式アクチュエーターは、特有の甲高い駆動音が微かに聞こえる以外、機械であることを感じさせないほどにスムーズだ。 『一帯に強力な負の思念粒子(アストラルライト)が満ちている。大物(、、)がいるぞ』 【サムライ】に対してエネルギー供給を行う出力霊体(PA)。その役を担う神の一人=乾闥婆(ガンダルヴァ)の思念を変換装置(コンバーター)から実現装置(リアライザー)が受信・実現(リアライズ)し、電子文字として光志のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示した。  悪魔探知機(レーダー)が更新され、悪魔や幻霊装騎(ファントムファクト)が活動するのに必要な思念粒子(アストラルライト)――その濃い場所を意味する甲域(かんいき)が、無数の赤と青の点となって表れた。青い点は味方。赤い点は敵を示す。 「上位悪魔が出たぞ! 輸送機が落とされた!」  早くも崩れた前線で、味方の悲鳴じみた声がインカムを介して兜の中に響く。各騎体の兜に備わる通信機器=C4INSTAR(シークォドルプルインスタ―)は、音声や映像、位置情報を始め、様々な情報を共有する作戦統合システムで、一切ラグの無い交信を可能にしている。  光志は海に目を向け言葉を失う。浜の沖合数十メートルの位置に、全高二十メートルはあろうかという大型の上位悪魔が立ちはだかっていた。  炎に包まれた輸送機の残骸が至る所に散見される。ニ十機以上はいた編隊のほとんどが撃墜されていた。上位悪魔の力で落とされたらしい。
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