第一章 窮地に咲く花

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 前方で陣を取る一団の思念粒子砲(アストラルキャノン)が上位悪魔へ向け立て続けに発射されるも、全く効果が見られない。  ひょろ長い手足。顎から頭頂にかけてVの字型に尖った頭部。負の思念粒子(アストラルライト)が取り巻いているためか、巨体が蜃気楼のように揺らいで見える様は異形そのもので、見る者すべてを怯えさせる。単に巨人と表現するにはあまりにもおぞましい存在。  墜落から生還した安堵は一瞬にして掻き消える。戦場で生きている限り、死への恐怖がすぐに塗り替えるのだ。どこまでも無慈悲で冷酷で虚しい戦争の世界にはもはや、心の安らぐ時も場所も無い。  こうして人から生じた恐怖や絶望は負の思念粒子(アストラルライト)などと呼ばれ、悪魔たちが人間界(クンダバファー)で活動するための燃料(、、)になっているという。 「来るなら来い! 空梨の分まで戦ってやる!」  光志は常盤色(グリーン)照準指示具(レーザーサイト)点灯と同時に、右肩に装備した思念粒子砲(アストラルキャノン)を稼働させる。折り畳まれた状態から変形し、全長五十センチほどの筒状を形成した肩部のそれが、砲口を正面に構えた。  前方から下位悪魔の一種――【人型(Hタイプ)】が迫る。 「どうした⁉ 怯えた人間はここにいるぞ⁉ 飯の時間だ!」  光志は震えを吹き飛ばすように叫んだ。 【人型(Hタイプ)】の細い肢体は黒と紫が織り交ざったような奇怪な筋線維の集合体。人間でいう心臓の部分だけが球状に赤く光って脈打っている。顔の部分は目と思しき穴が二つ、口部と思しき穴が一つ、どれも黒く不気味に開いているのみ。視覚の有無は不明。 【人型(Hタイプ)】は口部の穴を大きく開いて天上を仰ぐと、この世で生きるものには出し得ない低く奇怪な雄叫びを上げ、光志目掛けて飛び掛かった。  動体検知機(モーションセンサー)が反応。照準指示具(レーザーサイト)が悪魔の赤く脈打つ心臓部――通称=コアを捉える。 HMD(ヘッドマウントディスプレイ)捕捉(ロック)を意味する十字型のマークが表示され、肩部の思念粒子砲(アストラルキャノン)が青白い閃光を放つ。拳ほどの光弾が、背丈六フィートの悪魔の片腕に命中。粉々に吹き飛ばす。  コアを破壊されればこの世界に存在できないことは悪魔側も認知しているのだろう。身をくねらせるような挙動で腕を構え、殲滅の思念が込められた光弾から己の心臓部を守った。 「――っ!」  光志は片手甲部に格納された短剣を展開。悪魔の触手とも取れる黒く細長い腕を切り落とす。バランスを崩して転倒した悪魔に鉄靴を踏み下ろし、身動きを封じたところで、コアを短剣で刺し貫いた。
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