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急所を破壊された悪魔は一気にその力を失い、黒い微粒子状に分解――消滅。
手に残る分厚い肉を刺したかのような感触と、早まる心音。
方々で戦闘が始まっていた。思念粒子砲の放つ青白い曳光が乱れ飛び、振るわれる無数の短剣が銀に煌めく。
周囲には光志と同じようにわけもわからず機外に放り出されて着地した者、失敗した者、異形の怪物たちに襲われる者。そして死体。潮風に混じる血の臭い。
目の前で兵士の一人が【人型】の触手の如き鋭利な腕に胴部を刺し貫かれシグナルロスト。現実化していた【サムライ】が解除され、煙のように霧散して消失。血に塗れた軍服姿の少年が露わになる。
悪魔の攻撃は瞬く間に防御円を減衰させ、金属製の装甲をも容易く貫く。
『警戒しろ。上位悪魔が権能を使おうとしている』
と、乾闥婆の警告。
その背から生えた蝙蝠の如き巨翼を上位悪魔が左右同時に振るうと、轟音と共に大地が揺れ、海面から細い竜巻のようなものが空高く突き出し、海上を旋回中の無人戦闘機を次々に撃墜。翼を失った機体の一つが砂浜に墜落。兵士たちを巻き添えに大量の砂を爆ぜ上げた。
海面から突き上げるように出現した竜巻の正体は、上位悪魔の権能によって引き起こされた、大激流の水柱である。
上位悪魔の背丈以上の高さまで突き上げられ、らせん状に渦を巻く水柱は、まるで意思を持つかのようにくねり、浜の兵士たちへと襲い掛かった。獰猛な蛇の如く暴れ狂う水流が、【人型】と交戦する兵士たちの身体を絡め取って投げ飛ばし、あるいはその水圧で叩き潰す。輸送機を襲ったのもあの水柱に違いない。
こうして圧倒され、人間は為す術なく死んでいくのか。家族も、ずっと一緒だった仲間も。
光志の脳裏を、空梨の笑顔が過る。
「くそ! くそ! くそッ‼」
光志は砂を蹴立て、出会う敵を斬る。躱す。撃つ。防ぐ。穿つ。いなす。貫く。
無意味なことを考えるなと己に言い聞かせる。
倒せど尽きせぬ敵を前に、視界が滲む。
空梨はもう戻らない。もう二度と、話すことも笑い合うこともない。
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