第一章 窮地に咲く花

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 死んだ者は不幸だ。もう何も得るものが無い。上位界(インテリジェンス)に存在する神々の意思――則ち思念粒子(アストラルライト)人間界(クンダバファー)にダウンロードする装置=変換装置(コンバーター)が開発されて以来、神々との交信によって天国や地獄といった死後の世界の概念は覆された。  永遠に続く楽園へ行くことがなければ、苦しみを受け続ける地獄へ行くことも無い。死んだあとに待ち受けているのは【有】か【無】のどちらかだけなのだ。自分という肉体を失い、思念粒子(アストラルライト)となって世界を漂い、神か悪魔か生物か、選ぶこともできぬままそのいずれかに燃料(エネルギー)として食われ、己の思念も何も無くなる。あるいは、神々の気まぐれでごく稀に生まれ変わる。  悪魔探知機(レーダー)が反応。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に再び警告(アラート)。新たな【人型(Hタイプ)】が輸送機の残骸の影から、黒煙が噴き出すようにして姿を現したところだった。 「消えろッ!」  光志は気迫と共に斬撃を見舞い、【人型(Hタイプ)】の頭部を切り落した。分離した頭部が空中で飛沫(しぶき)のように消失するが、【人型(Hタイプ)】は尚も動き続ける。  再びコアを狙って短剣を突き出すも震えからか狙いが逸れ、僅差でコアの横に突き刺さった。そのまま勢いに任せ、体当たりで押し倒す。 『落ち着いて仕留めろ』  乾闥婆(ガンダルヴァ)の思念が再び文章化して表示される。光志は短剣を引き抜き、逃れようともがく悪魔に再度突き立てて終止符を打った。  乾闥婆(ガンダルヴァ)のように親身な神は希少で大切な存在だ。彼らの思念による助けがなければ、人類は悪魔とまともに戦うことすらできぬまま、ただ滅ぼされるしかない。 「光志! 無事か!」  後方から、同じ機体に乗っていた涼吾と数名の兵士たちが駆けてきた。
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