第一章 窮地に咲く花

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「ああ! 他のみんなは⁉」  輸送機には五十名の兵士が乗っていたはずだが、そのほとんどの姿がない。 「散り散りだ。外へ放り出された俺たちはどうにか自力で着地できたが、機内に取り残された連中はわからん。シグナルの半分が消えてる。大隊長のもだ」 「それじゃ、僕たちのリーダーは誰?」 「……たぶん俺だ。総指揮を取ってる連隊長が生きてれば彼だが」  涼吾は言い、炎上する残骸を見つめる。  作戦通りに進んでいれば、今頃は防御陣形を展開し、無人戦闘機群の支援攻撃を受けつつ敵を迎撃しているはずだった。 『まだ動ける者は互いを守り合え! 海から来る敵を抑えろ!』  インカムから、防衛戦の連隊長を務める筒香(つつごう)の声。同時に、C4INSTAR(シークォドルプルインスタ―)によって彼の位置情報が共有され、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に映し出された。彼我の勢力差は歴然としており、海岸は敵を示す赤のドットで溢れている。 「大佐たちと合流しよう! ここに居たら各個撃破されちまう!」  涼吾の指示で、光志たちは進路を塞ぐ敵をどうにか突破し、海岸を北へ移動する。  敵陣のど真ん中で、全高二メートルと小振りなボディにも拘わらず、微塵の恐れも感じさせぬ機動で上位悪魔に立ち向かう幻霊装騎(ファントムファクト)がいた。光志たちが到着する前に、無人戦闘機群と共に先行していた筒香の専用騎体【ヴァイシュラーヴァナ】だ。  紺色を基調とした騎体の武装は一振りの太刀のみ。俊足で水上を駆け抜け、瞬く間に上位悪魔へと肉薄。恐らく権能(スキル)だろう――水上から今度は敵の巨体を駆け上がり、視認が困難な速度で斬撃を見舞う。  幻霊装騎(ファントムファクト)乾闥婆(ガンダルヴァ)のような出力霊体(PA)から送られてくる思念を変換装置(コンバーター)を介してダウンロードし、実現装置(リアライザー)で現実化させて戦う兵器。  各騎体には出力霊体(PA)がもたらす思念――則ち特有の権能(スキル)が備わり、それを現実化(リアライズ)することで超常的な現象を起こすことができる。即ち、神の力の一部を扱えるのである。  ――――ギンッ!  硬い何かを断ち切ったような鋭い金属音が響き渡った。 【ヴァイシュラーヴァナ】の一閃が見事に上位悪魔の片腕を切り落としたのだ。  だが、そこで予期せぬ事態が起きる。
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