序章

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序章

 その日、人類は見た。人の形をした黒い巨体を。最初の敵を。すべての発端を。黒い巨体がゆっくりと両腕を広げ、天を見上げ、悠然と宙に浮きあがるのを、奇異の眼差しで仰いだ。 【第四騎士(ダークスティール)】とは、黒い巨体の名である。【第四騎士(ダークスティール)】は、【黒い死(ハーデス)】を人類にもたらした。  虚空に突如現れた、虚無の如き暗い穴こそが、【黒い死】と呼ばれる所以であった。その不気味な穴は、何者も抗えない力で選定(、、)された人々を吸い寄せ、海原にとぐろを巻く大渦のように容赦なく丸呑みにしたかと思うと、静寂のみを残して跡形もなく消え去る。 【黒い死】は世界各地で同時に発生し、齢二十五を越える人間が地上から影もなく消え失せ、世界人口の半分以上が滅ぼされた。  次に、人類は無数に蠢く人ならざる者――悪魔(あくま)の姿を見た。  異変は【黒い死】の出現に留まらず、影の中から現れた黒い異形の怪物たちが、方々で人々を襲い始めたのだ。  逃げ惑う人間を触手の如き鋭い手足で慈悲なく刺し貫く悪魔に、人類はただ(ほふ)られるばかりであった。  その日は、【開戦の日(X・DAY)】と呼ばれた。
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