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二人が宿舎の屋上から一階に降りると、同じ十代後半の若き兵士たちが待ち構えていた。
皆がタイミングを合わせてクラッカーを鳴らし、通路の両サイドから紙吹雪をばら撒いた故か、全員が着用するカーキ色の常装まで華やいで見える。
「お二人さん、愛の契りは済んだか?」
「残念! 光志のやつはフィアンセ落第で残留だとさ!」
「やめてくれ! 誤解だってば!」
光志は仲間にヘッドロックを極められてもがき苦しむ。
「どうだかな? こんな美人と二人きりだなんて羨ましいったらないぜ! 幼馴染の特権か⁉」
「空梨! 新型に乗ったら、私たちの分も奴らにぶちかましてやって!」
「――うん。頑張る」
空梨が顔を真っ赤にして通過する中、一つ屋根の下で一年の訓練期間を乗り越えた仲間たちが、挙って別れの声を張り上げる。
暗黒の時代に希望の光の如く兆した彼女への、報いにも似た誇らしさと寂しさをその瞳に湛えて。
正面玄関から外へ出ると、第九期生のリーダーを務める日笠涼吾が立っていた。
「空梨、準備はいいか?」
実直さと勇ましさの共栄する二枚目顔を空梨に向け、涼吾は言った。
「いいよ。未来の連隊長さん」
重量感のあるバックパックを軽々と肩に掛け、空梨が答えた。
「稲葉空梨。俺たちは本日四月一〇日、君の【トップガン】移籍並びに、新鋭搭乗型幻霊装騎【ホワイトイーヴィル】のパイロットに選出されたことを心より祝福し、クソッタレどもに雪辱を果たすことを願っている。努忘れるな。例え陸地が離れても、俺たちは家族だ」
涼吾が同期全員の寄せ書きで埋められた色紙を空梨に手渡す。
「ありがとう。心の支えにします。東アジア支部第九期生に、神の加護あれ!」
色紙に目を潤ませた空梨が十字を切り、仲間たちに祈った。
そして最後に、空梨は光志を見た。首の辺りで切り揃えられた彼女の髪が微かに揺れる。
光志は空梨に、鼓舞の念を込めて頷いた。
「――行ってきます!」
空梨は凛とした表情で敬礼し、肌寒さを残す春風の中、光志たちの下を発った。
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《連合政府通知文書・第四百八十号・戦役歴十年、十月十日発行》
・北アジア並びに中央アジア諸国の陥落を確認。敵の規模は不明。周辺に展開する防衛軍は難民の保護を最優先。
・上位悪魔ラハブ率いる軍勢が米国に出現。新鋭騎【ホワイトイーヴィル】を含む統合防衛軍北米支部第七騎兵連隊との戦闘が激化。
・上位悪魔ベリアルによる中国全土の【呪詛】汚染を確認。同国第十八騎兵連隊は怒放隊を残して壊滅。
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