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「ごちそうさまでした」
私は食べ終わった食器をシンクに下げると、代わりに台所からゴム手袋とビニール袋、そして新聞紙を持ってベランダへと向かった。
今の時間は武田さんは仕事に行っていて留守だとは思うが、用心するに越したことは無い。私は音をなるべく立てないよう慎重に、ゆっくりとベランダの窓を開ける。隣の武田さんの家の気配を伺うが、誰かがいるようには感じなかった。
ふぅ
と息を吐くと、私はクロの居たあたりの段ボールを音を立てないように取り除く。そこにはあの時と変わらない、包丁の刺さった黒い丸いものが落ちていた。
「くさい」
2日ほど放置しただけなのに、乾燥させていないからかニオイが気になる。
黒い塊から包丁を抜きながら「明日のゴミ収集の時はもっと匂いが出ているかもしれない」と私は考えた。
抜き取った包丁をシンクに置くために一度家に入った時、生ごみにかけると匂いが消えるという消臭スプレーが目に入ったので持っていくことにする。
ベランダに戻ると黒い塊を新聞紙に乗せ、その上からシュッシュとスプレーをかけて新聞紙でくるくると包む。その上からもう一度シュッシュとスプレーし、さらに新聞でくるんだ後ビニール袋で包み空気をしっかりと抜いた後口を縛る。
それをまた新聞で包んでシュッシュとスプレーをかけ、ビニール袋で包んでしっかりと空気を抜いて口を縛る。この作業をもう一度繰り返した後、私は玄関にそれを持って行くと市が指定する燃えるゴミの袋にそれを入れ、しっかりと口を縛った。
これでよしと。
あとはベランダを掃除して終わりだ。汚れていない段ボールを集めて、普段段ボールをためて置いてある場所へと戻す。汚れた段ボールは、汚れた面をこちらに向けて壁に並べる。
セッティングを済ませた私はベランダの隅に設置してある水道へと向かった。
このマンションには各個ベランダに「掃除用流し」と呼ばれる「蛇口と深めの洗面台」が低い位置に付いている。私も聡もガーデニングや家庭菜園には興味が無く、この流しを使うのは年に1回あるかないかのベランダ掃除の時だけだったので、今日ほどこの流しがありがたいと思ったことは無い。
流しは武田さんの家の方についているのでついでに武田さんちを覗き込み、武田さんがいないことを確かめる。よし、いない。
私はホースの先をベランダの床に向けると、強すぎず、弱すぎずの水流で水を出して、床と段ボールの汚れている部分に水をかけた。
どす黒いシミが鮮やかな赤色の川になりながら流れていく。
立てかけてあったデッキブラシをホースと反対側の手で持つと、私は床と段ボールの汚れた部分に水をかけながらこする。あまり力を入れなくても汚れはどんどん流れ去っていく。想像していたよりも楽に終わりそうでよかった。
15分ほど掃除すると、ベランダには血の跡など無かったかのように綺麗になった。
「さぁて、もうひと踏ん張り」
私はホースを巻き取りベランダを元通りにすると、家に入ってカーテンを閉めた。
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