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気分は上りも下がりもしないけど、体はだんだんと重くなってくる。常々運動不足だとは思っていたけど、まさかこんな状態で日ごろのツケを感じさせられるとは。
明日から少しずつでも運動しよう。そう思いながら、私は新聞紙と消臭スプレー、そしてビニール袋を手に持つとお風呂場へと向かう。
向こうを向いているとはいえ、頭があると何となく落ち着かないのでまずはこれから始めることにしよう。そう考えた私は聡の頭の髪の毛を鷲掴みにして持ち上げる。よいしょっ。思わず声が出る重さだ。
普段、頭の軽そうな発言しかしない聡のくせに、こんなに頭が重いだなんて納得がいかない。頭の良し悪しと頭の重さには関係が無いのだろうか。世界を代表する頭脳を持つあの人と聡の頭の重さが同じ。そんなことを考えるとなんだかおかしい。
世界には平等なことなんてひとつもないと思っていた。
だけど、こんなところに平等なものがあったなんて。神様もイキなことをするもんだ。もちろん私は神様なんて信じていないけど。
最後に顔を見ておこうとふと思った。
顔がこちらに向くように、つかみ上げた頭を回転させると、聡はとても不満そうな顔をしていた。不満なのは私の方だよ。そう口に出すと、先日の楽しかった記憶がふと頭をかすめ、目から勝手に涙があふれて頬を伝った。
何で泣いているんだろう。悲しい気持ちも寂しい気持ちもどこを探しても見つからない。まぁいいや。私は聡の顔を持ち上げると顔を近付け、聡の唇にそっと口づけをする。冷たい。それにそんなに不満そうな顔を見せられたら、ムードも何もあったもんじゃない。
「もういいや」
私はそうつぶやくと、足元に広げてあった新聞紙の上に聡の頭を乗せた。新しい新聞紙を脱衣所から取るとそれで全体を拭きあげ、頭を乗せてある新聞紙で包んだ後、3重に重ねたビニール袋の中に入れた。
消臭スプレーを振ろうかとも思ったけど、やっぱり付着したまま残る成分が気になったのでやめておくことにする。どうせ今晩捨ててしまうし。まぁ大丈夫だろう。
両手両足と胴体もそれぞれ同じように拭き取り、別々のビニール袋に詰め込んだ。
そのままでも外から見えることは無かったとは思うけど、カーテンを閉めておいたので安心して廊下に持ち出すことが出来る。私は重たいそれらのパーツをひとつずつ玄関へと運び出した。
さっと浴槽をお湯で流した後、私はとてつもなくお腹が空いていることに気が付いた。
何か温かいものが食べたい。
そう思った私は、レトルトご飯とレトルトカレーを温めて早めの夕飯を食べることにした。
カーテンの隙間から、真っ赤な夕焼けの光が差し込んでくる。
カーテンを開ければ、素晴らしい夕焼け空が広がっているのだろう。綺麗な夕焼け空を想像しながら、私はカレーをパクパクと食べる。美味しい。そして温まる。
お腹を満たしながら、私は聡であったものを破棄するのにいい場所がないかと、捨てられそうな場所を思い浮かべる。
キャンプ場
和歌浜公園
和歌浜広場
……
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