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私はあわてて手をひっこめるとその場で体を固くした。
息をするスピードを落とし、気配を消しながら外の様子を伺う。足音は私の家の前を通り過ぎ、少しすると隣の玄関の鍵を開ける音が聞こえた。
「ただいま」
武田さんの声。武田さんが仕事から帰ってきたようだ。武田さんの家のドアが閉まる音を聞いた後、私はふうーっと大きく息を吐きだすと、なるべく音を立てないように玄関のドアを開けて、顔を出してきょろきょろと辺りを見回した。
誰もいない。
武田さんも今帰ってきたところだから、しばらく外に出ることは無いだろう。私は聡を持って車へと向かう。
その後も何事もなく、聡も全部運び終わり、ゴミも捨てた。家をきっちり綺麗にするのは帰ってきてからにすることにして、私は車に乗り込んだ。
さぁ、どこから行こうか。
行先がまだはっきりと決まっていないまま車を走らせる。辺りはもうすっかりと暗くなっていた。
ぼんやりと運転しているうちに、和歌浜公園に到着していた。
和歌浜公園はたくさんの人でにぎわう公園ではあるが、私はそんな和歌浜公園の中でも夜間人がほとんど立ち入らない場所を知っている。
街灯が少なく、桜や紅葉ではない木々が茂る場所。確か和歌浜公園のHPでは「森をイメージした」と書かれている場所で、昼間はそれなりに人がいるものの夜になると他の場所に比べてかなり暗い場所になるので近付く人はいない。
私は車を止め、後部座席に移動すると持ち出す聡のパーツを選んだ。
右足と左腕でいいか。後は武田さんのナイフ。
袋から取り出した右足と左手の新聞をはがし、新しく3重に重ねたゴミ袋に詰め込みそれをリュックに入れる。新聞と取り出したパーツの入っていた袋をまとめている時に、私は聡のキャップが後部座席に落ちているのを見つけた。
「これいいじゃん」
私は帽子をかぶり、リュックを背負うと車から降りてなるべく暗い道を選んで公園の中を目的地に向かって歩き始めた。
しかし、捨てようと思っていた場所には、今日に限って若者が数人タムロしていた。これじゃここには捨てられない。そう思った私は池の方へと歩きはじめる。
しばらくして到着した池の周りで、背の高い草が生い茂って生えている場所を偶然見つけることが出来た。
ここなら池の外からは柵があって入れないし、この背の高い草のおかげで見つかることは無いだろう。ボートに乗っていても、こんな池の端までくる人間はいないだろうし、中からもこの草が邪魔して見えないだろう。
周りを見回し、人がいないことを確認した私は聡の左腕を柵の向こう側へと投げ捨てた。ガサガサッという音を立てた右腕は草の中に消えて行った。
少し場所を変えて次は右足を放り込む。左腕と同じようにガサガサッと音を立てて右足は草の中へ消えて行った。水の音は確認できなかったので池の中にまで落ちて行ったのかはわからない。
しかし、はじめに捨てようと決めていた場所より、この場所の方が見つかるまで時間がかかるだろう。いい場所に巡り合えた。
最後にナイフを投げ捨てると、私はまた暗い道を選びながら何事も無かったように車まで戻った。
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