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クロ
え?なに?
ある晴れた日の昼下がり、淹れたての珈琲を片手にベランダへと向かう私の視線の先に”ソレ”はあった。
ベランダに落ちている真っ黒な黒い塊を見つけた瞬間、部屋の中で活動をしているのは私ひとりかのような不思議な感覚に陥る。
自分の心臓の鼓動以外何も聞こえない空間。
そんな音のない世界に取り残された私の頭の中に突如響き渡ったのは、朝からテレビで何度も繰り返し報道されている女性アナウンサーの声だった。
”昨夜未明、和歌浜公園で見つかった右足は、先週和歌浜広場で見つかった胴体部分と同一人物であることが判明しました。これで胴体・両手・右足と発見されたバラバラ死体ですが、まだ左足と頭部の2か所が見つかっていません。今判明していることは、被害者は20歳代の男性と言う事だけです。警察では、残りの部分は周辺地域に隠されている可能性が高いとみており…”
和歌浜公園はここから徒歩20分の場所にある大きな緑地公園だ。大きな人工池を中心に備えたこの公園は、春はサクラ秋は紅葉の名所として県内外の人から人気のスポットとして休みの日はもちろんのこと、平日の昼間でも沢山の人が訪れる。
貸しボートが借りられる人工池では、真冬の寒い時期を除いて常に4~5艘のボートが気持ちよさそうに水面に浮かんでいるし、公園をぐるりと一周できる遊歩道には池の周りを回るコースなどもあり、ジョギングや散歩を楽しむ人でいつも賑わっている。
親子連れからカップル、熟年の方まで幅広くの人が公園内で思い思いの楽しみ方ができる人気の公園。それが和歌浜公園だ。
そんな憩いの場で発見されたバラバラ死体は損傷が激しいらしくいまだ身元が分かっておらず、もちろん犯人も見つかっていない。
胴体が見つかった和歌浜広場は和歌浜公園から車で30分ほど離れた場所なこともあり、昨日までは街に不安の色はあったものの「対岸の火事」という言葉がぴったりなのんびりとした空気が流れていた。
しかし今朝買い物へ行こうと外へ出たところ、昨日までとは一転してピリっと張り詰めた空気が街中に充満していた。
道行く人道行く人お互い疑心暗鬼を生じているような、なんとなく居心地が悪い空気をたっぷりと浴びて帰宅した私は、暖かいココアを淹れてリラックスしようと努めていたのに一気に緊張感に囚われた。
「まさかバラバラ死体の頭じゃないよね…」
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