さまよう

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 うずくまる私の上に、パラパラと雨が降りかかる。冷たい、ここはどこだ?  私は立ち上がり辺りを見回した。枯草がまばらに顔を出す荒涼とした大地に、雨まじりの冷たい風が吹き付けている。灰色で重苦しく暗い空、足元にはゴツゴツとした岩がよそよそしく転がるばかりで、色彩を感じるものは何もない。しかしここはとにかく寒い、はやく家に帰って暖まりたい。  だが、私の家はどこに?  私は私の家を探すために、とりあえず歩き出した。が、足が異様に重く上げ下げもままならず、ゆっくりとしか進めない。まるで水中であがくように必死で足を動かしながら、それでも何とか少しずつ進んでいった。しかし行けども行けども同じように陰鬱な空間がひたすら広がっていくのみ。どちらを目指したらよいのかすらわからず疲れ切った私は呆然として立ち止まり、地面にどさりと腰を下ろした。  すると奇妙な事に気が付いた。音がしないのだ。地面を蹴ってみる。足に手ごたえは感じるが無音だ。そういえば雨の音もしない。耳が聞こえなくなったのかと私は急に怖くなり、「あ、あ、」と声に出して言ってみた。自分の声は聞こえる、どうやら耳の問題ではないらしい。しかしそれ以外の音は、いっさい聞こえてこない。  私は地面に腰をおろしたまま膝を抱えうつむいて目を閉じ、額を膝につよく押し付けた。いやな夢、いやな夢だ、早く覚めないか。  私はそのまま目覚まし時計が鳴るのをじっと待った、しかし願いはむなしく何も聞こえてはこない。絶望感に打ちひしがれ顔を上げたが、目の前には永遠の寂寞が広がるばかり。私はひた降る雨でぐっしょりと濡れそぼった服の袖で、顔にかかる涙とも雨ともつかぬ液体をぬぐい、為すすべもなく呆然と薄暗い地面を見つめていた。
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