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チェンサー
あっ、またやっちゃった。
同じミスだよ。いいかげん学習しろよな俺。
スマホゲームで同じステージの雑魚キャラにやられるという初歩的ミスを俺は何回も繰り返してしまった。
体中がメラメラと熱くなりやり場のない怒りを寝室の壁にぶつけた。
あぁもう!
かつて俺は今流行のeスポーツの選手だった。
eスポーツ選手を本格的に目指すようになったのは中2の頃、友達とスマホアプリのサッカーゲームで対戦したときに圧倒的な差をつけその友達に勝った。
で俺はその時に俺ってもしかして頂点目指せるんじゃね?という自惚れ心が自分の中に生まれた。まぁそれも当時学校中で一番強い、一番強いと全員が声を揃えて言っていた奴に勝ったこともあって自分に自信がついた。
そこからそのサッカーゲームのオンライン予選に参加し予選突破、次に全国予選に参加し、戦績は悪かったけどギリギリ予選突破。
最後に全国決勝に参加してまさかの優勝。
全国に俺の名を知らしめた。
自分でもまさかこんなにトントン拍子に上手く進むとは思っていなかった。
だけどそこが俺のeスポーツ選手としてのピークだったと思う。
その1年後また俺はサッカーゲームのオンライン予選に参加した、今度は王者として。
結果は予選敗退。
次のステージの全国予選に行くための最低ライン5勝すら出来ず0勝で王者ロードは幕を閉じた、幕が開くこともなく。
俺の結果はそのゲーム内のニュースに載せられ一部ネット上からは過去最弱王者とも言われた。
俺はそこで挫折しスマホに入れていたサッカーゲームをアンインストールし、eスポーツ選手としての道を自ら閉ざした。
その後は学校に行ってもその事を弄られ学校に行くことにも嫌気がさし、今はこうして家に引きこもって一日中スマホゲームをしている。
そんな俺を親は
「将来の事を考えてちゃんと学校に行きなさい」
と毎朝口酸っぱく言ってくるけど俺は気にしない。
結局人生なんとかなるって思ってるから。
深い理由とかは特に無いけどね。
でもこれからの人生を大きく左右するかもしれない出来事が昨日起きた。
あれは確か、新作ゲーム「カリビリィティ」
が配信された直後だったかな。
いきなりスマホに怪しいメールが届いて詳細確認してみたら
【1億かくれんぼ招待のお知らせ】
斉藤光一様
1億かくれんぼ参加へのご応募誠に有難うございました。
厳選な抽選の結果、見事お客様がご当選されましたので以下の詳細の確認をお願い致します。
【1億かくれんぼ】
参加人数 1人
制限時間 60分
開催日時
2月2日
15時〜16時迄
会場
名古屋公園のジャングルジム下
《注意事項》
・1億かくれんぼを見事参加者が60分逃げ切った場合賞金として1億円を贈呈させて頂きます。
・指定された日時や会場に姿を表さなかった場合強制失格となり、貴方様の現在お住みの住所、電話番号をネット上にばら撒かせて頂きます。ご了承ください。
・1億かくれんぼにはチェンサーという鬼がいます。そのチェンサーに捕まってしまうとこちらの方でお客様を処分させて頂きます。
・チェンサーに対して暴力行為を行った場合も処分対象となります。
・隠れる範囲は名古屋公園の中とまでさせて頂きます。名古屋公園の敷地内が一歩でも出た場合も処分対象となります。
以上が1億かくれんぼの詳細となります。
分からないところがありましても、こちらは一切返答致しません。
それでは当日お待ちしております。
???より
こんな怪奇なメールが俺の元に届いたんだよな。
最初は勿論文章を読んで1億なんて実際貰えるわけないし、個人情報ばら撒くなんて出来る訳ないだろと思ってたけど
当日に近づくにつけ、本当に1億貰えるのかな?、個人情報ばら撒かれたらどうしよう、っていう心配と好奇心がどんどん出て来て結果的に決断した。
参加する事に。
まぁ今、暇だし
何より個人情報をばら撒かれたら洒落にならんよね。いくら人生なんとかなるって言ってもそのせいで逆に俺の人生が大きく左右する事になりかねないし。
まぁかくれんぼして1時間逃げ切って
1億貰って一生遊んで暮らそっと。
スマホの画面で時刻を確認した。
今は13時40分。
そろそろ出て向かうか。
そう今日はその1億かくれんぼ当日だ。
俺は元から来ていた黒の上下ジャージを着たまま自分の部屋を出た。
持ち物はスマホだけ。
かくれんぼするだけだからお洒落する必要もないからカバンもわざわざ着替える必要もなし。
玄関に行くとこれまた黒のスニーカーに履き替え名古屋公園へと出発した。
ここから名古屋公園までは大体1時間くらい場所は分かっている。
いつも名古屋公園に行くなら電車を使っていくけど
まぁいつも部屋に籠もって運動不足だしかくれんぼの軽いウォーミングアップだと思えば全然苦じゃない。
そう思ったのも束の間すぐに動機が早くなり息切れが始まって体中に疲れが溜まっていった。
名古屋公園まではまだまだだ。
タクシー拾って向かうか。
そう閃いた俺はジャージのポケットから財布を取り出そうとするが財布が見つからない。
どこかで落としたのかと最初は慌てたがすぐに分かった。
家に財布を置いてきてしまった事を、それはすなわち交通手段が使えないことを意味しここから歩くしか名古屋公園に向うしかないという絶望感をも意味した。
ここで立ち止まってもしょうがないから歩こう。
そう心が折れながらも決心した俺は未だ心臓がバクバクしながらも重い足を動かし始めた。
「はぁはぁぁ」
ひどい息切れを起こしつつもなんとか
指定された時間15時の10分前に着いた。
俺は休む間もなくジャングルジムを探し始めた。ここで急に休憩してしまうと返って心臓が悪くなるみたいな事を小学校の時聞いたことあったような気がするから今それを避けるためにあえて休憩を挟まずに歩いている。
この公園にはジャングルジムは一つしか存在しないから恐らくメールの主はそこを指してるのだろう。ほらそうこうしているうちに目の前にカラフルなジャングルジムが見えてきた。
全長約三メートル過ぎのジャングルジムに近づくとジャングルジムのある棒に貼り紙がしてあるのが分かった。
その貼り紙に手を伸ばし貼り紙に書かれている文字を確認すると
「15時1億かくれんぼスタート
15時になったと同時にチェンサーが
お前を探し出す。
さぁ好きな所に隠れるがいい
ほらチェンサーがお前を見ているぞ」
と不気味にも赤文字で書かれていた。
俺は最後の文章に怖さを感じ辺りを素早く見渡したがチェンサーらしき姿は見つからない。
そもそもチェンサーはどんな格好、姿をしているのか分からないから余計に恐怖心が煽り立てられる。
というか名古屋公園に入ってきてから人とすれ違ってない気がする。
さっき辺りを見渡したけど人っ子一人いない。
思わず固唾を飲んだ。
ここは同じ地球上の世界でも違う世界、異世界に飛んできてしまったような錯覚に陥ってしまう。
スマホをポケットから取り出し時間を確認する。
時刻は、15時ピッタリだった。
俺は考える間もなく急いでジャングルジムの側から走って離れた。
とにかく無我夢中で走りながら隠れ場所を探す。
だけど走っている最中に気がついた。この公園は確かに広いでも広いただそれだけ。
隠れる場所なんてほぼ皆無だ。今までなんで気づかなかったんだ。小さい頃からここで何回も何回も遊んでたのに。
脳内で反省会をしていると
人が一人分ちょうど隠れられそうな茂みを見つけた。
俺は急いでそこに飛び込み外から見えないように体の向きなどの調整を始めた。
土が水を吸って泥化している。
多分外からは見えないと思う、この中でさえも外の状況が見づらいし、今日の服装だって派手な色は来てない。
ゆっくり時間が経つのをここで待つことにした。
10分ぐらい体感で経っただろうか未だにチェンサーらしき者は通ってない。
というか人一人も通らない。
体制を調整したせいでポケットのスマホを取り出せず自分の体内時計が時間を教えてくれる。
心臓の鼓動が速くなるのを感じる。
速く速く終わってくれ。
そう思ったときだった
目の前にゆっくりとスーツ姿の高身長ぽい男性が辺りを見渡しながら歩くのが微かに茂みの中から見えた。
アイツがチェンサーか?
疑問ながらもアイツがチェンサーなら自分が思ってたよりかは見た目がマイルドっぽくて怖さはなさそうだけどチェンサーなのか?
次の瞬間チェンサーらしきスーツの男性がこちらにゆっくりと近付くが確認出来た。
しかも手には…ナイフらしきものが光り輝いている。
間違いないアイツがチェンサーだ。
見つかった俺は急いで茂みの中から出ようとするがもう立ったときにはヤツが目の前に居た。
「見ーつけた!」
甲高い声がヤツから発っしられた。
まるで女性のような声の高さだ。
「お前馬鹿だな!わざわざご丁寧に足跡をつけて自分の隠れ場所を教えてくれるなんて!」
その言葉を聞くと俺はハッと衝撃が走った。
今日の午前中は大雨だった。
今は雨も止んで曇っているけどその雨を吸った土が泥になった。
ジャングルジムの所はまさに泥だらけだった。
そこから走って逃げたものの走った所はランニングコースで下が全部アスファルトだ。
茂みに飛び込む寸前までアスファルトを踏んでいた。
つまり、ジャングルジムで着いた足の泥がアスファルトに足跡を残して俺の居場所がバレてしまったんだ。
「これから…どうなるんだ俺は」
最悪な察しはもう分かるがその返答が嘘であってくれそう思いながら俺は震える声でチェンサーに聞いた。
「ハハッ!もう見てわかるだろ。お前を今から処分するこの…ナイフでな!」
チェンサーはそう言うと目に見えない速さで俺の首を一閃切り裂いた。
俺の首から大量の血が溢れ出した。
チェンサーのスーツが俺の血で部分的に染まっている。
俺は意識がいきなり遠くなりその場で倒れてしまった。
「もしもし…はい。予定通りあなたの息子さんは殺しておきましたよ。ちゃんと500万振り込んでくださいね。では」
これが俺がこの世で聞いた最後の言葉だった。
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