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まだ寒い。「う~ん」と息を漏らす。「もう少し寝かせてよ」なんて頭の中で悶てみる。毛布を顎まで引き寄せたら、今度は足が出て寒かった。
お正月休みが明けて初めての日曜日。昨日はいきなりの土曜出勤だったし、そもそも内閣総理大臣が緊急事態宣言とやらを発出したのに、課長も部長も何の対応も言わなくて、「リモート勤務か交代勤務になるかな?」って、ちょっとでも期待したわたしが馬鹿だった。
寝返りを打って、目覚まし時計を探す。手探りしても枕元には無くて、丸みを帯びたアヒルの時計は布団の中に潜り込んでいた。そういえば自分で止めたんだった。日曜日だというのに平日の起床時刻に目覚まし音を鳴らした曲者の鳥を叩いて、そのまま二度寝したのだ。アヒルの胴体を薄目で見る。もう十時だ。
ビクッと心が勝手に反応する。十時という時間に狼狽。嫌な条件反射だ。別に休日くらい寝坊しちゃっていいじゃない。休日の睡眠は基本的人権で保証されている。ウィーン条約だっけ? 嘘。そんな条約ないけれど。だから日本国憲法は今すぐ国民の睡眠に関する条項を追加すべきだ。憲法第九条よりもそっち優先でよろしく。――スヤァ。
今日は冬期休暇以来初めての休日。お正月休み明けからの一週間、わたしはよく頑張った。偉い。偉すぎる。
一人の週末は、ゆっくり寝るし、ご飯もゆっくり食べるし、お風呂にだってゆっくり入る。今日も一人だ。一人だから誰に急かされることもなければ、誰かに気兼ねすることもない。一人だしね。……一人なんだなあ。一人なんだよなぁ……。
ベッドの下をまさぐる。お正月に引きこもっていた時に古本屋で買ってきた別冊マーガレットと花とゆめのコミックスを掻き分けて、わたしは二ヶ月前くらいに買った大きくて分厚い雑誌を引っ張り出した。――ゼクシィ。
言わずとしれた結婚情報誌だ。買っちゃったんだ。買っちゃってたんだよなぁ〜、こんな雑誌。馬鹿だなぁ。わたしは馬鹿だ。もうホント、この世は馬鹿ばっかりだ。
特集『結婚式のお金「かけ方・削り方」』。付録は『結婚式の常識マナーBOOK』。――知らんがな、ホンマ。
横になったままパラパラ捲ると、結婚式場情報のページが目に飛び込む。これまた条件反射みたいに、白いドレスと白いタキシードを着たカップルに吸い寄せられる。付箋まで貼ってた。
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