14人が本棚に入れています
本棚に追加
暖房をつけたまま寝たら最後、乾燥した空気で、喉がガラガラになって、肌もカサカサになる。――駄目、それは絶対に、駄目!
『あんた、もう、見せる相手もいないんじゃん。いいじゃん、お肌が荒れたって。綺麗にしてたのだって、男に好かれたいためでしょ』
わたしの頭の中で鬼が囁く。「ゲヘヘヘ」と品のない笑みを浮かべて。
『何を言っているの? 女が綺麗にするのはね、自分のためなの! 自分が自分らしくいるためなの! 消え去りなさい、小鬼ッ!』
脳内で四頭身の巫女キャラが、白装束で鬼の前に浮かび上がる。
臨兵闘者皆陣烈在前! とりゃー! どーん!
脳内で決着はついた。そう、お一人様になったからといって、美容の手を抜いたらそれこそ完全敗北なのである。――といっても、わざわざ休日にお化粧なんてしないけどね。スキンケア、スキンケア――オールインワンのジェルだけでも……。
三〇分に及ぶ戦いの末、朝の布団に完全勝利した私は、洗面所に向かう。のっそのっそ。
電気の暖房は効きが悪い。ガスファンヒーター買おうかなぁ。貯金は結婚資金にと貯めていたお金がある。切り崩す気満々で、すでに冬期休暇中にいろいろとポチッたりしちゃったけれど、まだ余裕はある。
――あ〜、なんでわたしってば、あんなに真面目に貯金していたんだろうなぁ。もちろん、まだ誰かと結婚する可能性はあるのだとは思うけれど、一年以上は先だと思う。どうせろくに遊びにも行けないのだし、お金は貯まるのだ。多分。
それに飲み会だって開催しにくいし、外出だってしにくいから、出会いの機会なんて自然と激減。だから新しく誰かとお付き合いするなんてことになる可能性なんて、しばらくきっと無いだろう。
過ぎ去れコロナの第三波! そして来い、私のモテ期の第三波! (注:なおモテ期は小学生の時と、大学生の時にありました。)
ほとんど目を閉じたまま、洗面台にたどり着く。蛇口を捻ってお湯を出す。初めは冷たいから待機。首を左右にポキポキ。流れ出る水に左手中指の先を当てる。指先に触れる透明な流れに撫でられているようで、何だか気持ちいい。まだ冷たいけれど。
あいつと久しぶりに会ったクリスマス。それが最後の日になるなんて思ってもみなかった。
最初のコメントを投稿しよう!