さよならの大掃除 ~わたしとルーロとティディベア~

5/8
前へ
/8ページ
次へ
 緊急事態宣言を受けて、リモートワークの方針も、交代勤務の方針も出さない会社の課長、部長、そしてそれより上の偉い人もろもろは馬鹿だけれど、こうやって別れて三週間近く経っても、いまだにあいつの欠片にしがみついているわたしが一番――馬鹿だ。  よし! こうなったら掃除をしよう! さよならの大掃除だ!  わたしは元々「思い立ったが吉日」系女子なのである。あいつと付き合っていた時は、デートだって事前にスケジュールしていたし、晩御飯はあいつが何を食べたいかって気にしていた。でも、わたしはそもそも誰かに合わせるのとかが得意なわけではないし、自分が自由であることが大好きなのだ。  徹底的に掃除をするのだと心に決めると、なんだか急にウキウキしてきた。  歯ブラシで歯を磨いて、洗顔フォームで顔を洗う。髪の毛を適当にリセットして、手早く保湿だけやってしまう。なんだか謎の気合が充満してきた。  ユニクロの部屋着に着替えると、フライパンを火にかけてベーコンエッグ。昨日、夜のコンビニで買ってきたライ麦パンをトースターに掛けた。電気ケトルでお湯を沸かす。いつもの紅茶のパックを開きかけて、手を止める。代わりに、戸棚を開けてストロベリーの紅茶を取り出した。これである。これこそちょっとお洒落な、お一人様のスタイルなのである。それからアロエヨーグルトとバナナ。もぐもぐ。  手早く朝ごはんを食べ終えて、お皿を片付けると、「よしっ!」と腰に手を当てた。食後の一休みを取ってから、というのも一案だけれど、今、休むとせっかく体中に充満したやる気が霧散してしまいそうな気がする。ここは大事な局面。わたしの戦いは始まったばかりなのだ。お掃除、レディゴー!  まずは換気とベランダに続くガラス扉を開け放った。冷たい風が吹き込んでくる。もう太陽は随分と高いところにあって、青空の中に白い雲が浮かんでいた。  ☆
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加