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「――うーん」
掃除を一通り終えたわたしは、椅子に座って腕を組んでいた。悩みながら右に左に座面を回転させる。
目の前にはティディベアのぬいぐるみ。あいつと去年の夏、旅行に行った時に買ってもらった。わたしの愛しいルームメイト。捲りあげられた掛け布団の脇、シーツの上で白い壁を背にティディベアがちょこんと座っている。――かわいい。
なんだかんだで今朝だって、この子を枕元に置いて一緒に寝ていたんだよ~。
眉を寄せる私の足元では、ロボット掃除機のルーロくんが朴訥とお掃除を続けていた。真っすぐ進んでは止まって方向を変えて、また動き出す。
自分へのお年玉みたいな感じで、このお正月に買ったロボット掃除機だ。意外と可愛いけど、結構やかましい。でも、そこそこ掃除してくれるので重宝している。
なおルーロはパナソニックが出しているロボット掃除機で、ルンバのパナソニック版って感じ。実家の家電は安心安全でパナソニック製品が多かったのだけれど、あいつと付き合っている間は買ってなかった。
あいつはやたら家電やIT機器に詳しかったから、一緒に選んでもらうと大体、海外のよく知らないメーカーとかばっかり勧めてきたし、「日本のメーカーは値段ばっかり高いんだぜ」とか言っていた。そのこだわりとか博識さを「ちょっとカッコいいな」とか思ったりもしたし、あいつの顔を立てる気持ちもあったりしたっけ。だからこの二年間はパナソニック製品とか全然買っていなかった。
でも無事、別れましたので、原点回帰です。――はい。
それはそうとして――ティディベアくんである。
朝ごはんを食べてからお掃除を開始して約二時間。
あいつの物は全部捨てた。あいつの服にあいつの充電器、あいつのコップにあいつのワイシャツ。
勢い余って、あいつとの記憶が残るものもどんどん捨てた。あいつが好きだったコーヒー豆に、あいつと観たブルーレイディスク、あいつと育てたサボテンにあいつとの旅行で買ったキーホルダー。全部捨てた。
そして新年のお掃除はほぼ完了したのだ
やがてゴミ袋にして二袋分ほどが一杯になった後に残ったのが、このティディベアくんだったのである。
腕を組んでどうしたものかと考える。
すると、どうしても思い出が蘇ってくる。
あいつの運転する車で向かった北陸への道。高速道路から入ったパーキングエリアで、食べた五平餅にたこ焼き。
ドキドキしながら二人でチェックインした温泉宿。台帳にサインしているあいつの横顔は、控えめに言ってカッコよかった。
だめだ、だめだ、だめだ!
頭をブンブンと振る。
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