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『あ、かわいい、これ! 買おうかな~』
『好きなんだっけ? ティディベア? 最近、いろんな観光地にいろんなバージョンのティディベアが売っているんだよな?』
『うん、そう。コレクションしたいくらいなんだけどねー。でも部屋がティディベアだらけになるのもね~』
『でも、今の部屋には無いよな?』
『実家に置いてきたの。独り立ちするのもあるし、ちょっと大人の女になろうかなって。でも、やっぱり可愛いなぁ』
『そういうところ、無理することないんじゃない?』
『――そう?』
『そう思うけど。ティディベアが好きな女の子とか普通に――可愛いし』
『……ありがと。お婆ちゃんがね。昔、作ってくれたの。お誕生日祝いにね。それが小学生の時の宝物で、それ以来、ずっと好きなんだ』
『へー、そっか。お婆ちゃん子だって言っていたもんな』
『うん。言ってたっけ?』
『言ってたよ。そういうところも、良いな、って思ったりしたんだから。――って、こういうこと言わせんなよ』
『え〜、何よ〜、自分で言ってんじゃん。ウケるし』
『ウケねーよ。……じゃあ、まぁ、そういうことだったら、これプレゼントするよ。旅行の記念にな』
『え? いいの? う〜ん、じゃあ、お言葉に甘えとこうかな! サンクス!』
『おう!』
ベッドの上でティディベアがくりっとした目をこっちに向けている。無邪気で可愛いその姿に癒やされる。お婆ちゃんが作ってくれたティディベア。あいつが買ってくれたティディベア。
「こんなの、捨てられるわけないじゃん――」
立ち上がる。ベッドの上に膝を下ろす。手を伸ばしてティディベアくんの頭を撫でた。そっと引き寄せてクマちゃんを抱きしめる。なんだか柔らかくて温かい。
あいつが夜遅く部屋に来る日、ベッドの上でこの子を抱きしめて待っていたっけ。それだけじゃなくて、資格試験の合格発表の結果を見るときも、この子を抱きしめながらブラウザで発表のページを見に行った。あいつがいない朝も、ティディベアくんはここにいた。あの二人でいった北陸の街で、出会ったティディベアくんは、あいつの思い出も詰まっているけれど、それだけじゃないくて、どうしようもなくわたしの日々の一部だった。
おばあちゃんのティディベア。あいつのティディベア。――わたしのティディベア。
「――よしっ!」
声に出して心を決める。わたしはティディベアくんを手に取って立ち上がった。
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