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その日、やっと仕事が終わった。時計を見た。
「まずい!電車が!」
PCの電源を落とし、職場の電気を切り、暗闇を見渡し、他の電子機器の光が漏れていないか確認した。
「よし、漏れはない、お疲れ様」と誰もいない部屋に挨拶をする。
職場から駅に向かう道、もう街路樹からは葉っぱ1枚落ちて来ない。
裸になった枝の間から月の光が漏れている。深夜のオフィス街は怖さを覚えるほど真っ暗だから、その光さえ有り難く感じる。
静まりかえったビル間に響く音が寂しいから、ヒールを履いて来るのはやめた。
何人かのビジネスマンが私と同じ様に終電に間に合う様にと足早に駅に向かっている。私の嫌いな歩きスマホの光がその人達の顔を下から照らすから、尚更疲れきった顔に見えてしまう。
駅の明かりが見えて来た。あの電車に乗れば家に着く。乗り換えのない駅の近くに家を借りて良かったとつくづく思う。
電車に乗り席に座り、そこでスマホを開らく。ラインその他の通知を確認し、直ぐに返せる返事は電車で済ます。
直ぐに返せないラインがひとつ入っていた。
東京に住んでる同郷の友達の千尋からだ。スマホの画面いっぱいの長文。家に帰ってから読もう…。
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