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最後の光景
「見ての通りの色男でしょう、その時はラッキーって思ったわ。そうしたらこの人もあたしの事気に入ってくれてね、借金の清算もキレイにしてくれてさ、底辺の場所から救い上げてくれたのよ。くだらない人生を送ってきたあたしにとって、まさに一発逆転ホームラン。やっと運が向いてきたって、ほんと嬉しかったわ」
するとオバサンは視線を落とした。
「ところがこの人にはとんでもない裏の顔があったの。正真正銘の悪魔だったのよ、例えでも何でもなく。彼が欲したのは私の若さと美貌。それをそっくり渡せば、永遠の命をくれるって言われてね。
そりゃちょっと怯んだし異常者かもしれないって身構えたわよ。でもどっちにしろ人生終わってるあたしなんだから、好きにしたらいいって思った。で交渉成立」
オバサンは俺の目を見据えながら自嘲気味に、
「その瞬間、ちょっと目を引く美人だったはずのあたしが、こんな醜いオバサンに大変身よ。うん、嘘みたいでしょ、でもこれがほんと。そしてもともと美しかった彼の容貌は、さらに磨きがかかりより美しくなったってわけ、あたしから吸い取った養分を使ってね」
言いながら、男の顔を愛おしそうに撫でまわす。
「でもね、それもそろそろ足りなくなってきた。だから補充しないといけないのよ。ねえ、あんたちょっとくたびれてるけど、なかなかの色男だわね、だから十分使えると思うの」
ふと気づけば、オバサンの横に座っている男の手には、包丁のような刃物が握られていた。女の目は窓からの夕陽を受けギラギラと異様な光を放っている。まずい、本物の狂人だ。
俺は急いでドアに向かおうとしたが若い男の動きは素早く、胸に衝撃と激痛が走ったかと思った次の瞬間には二人から見下ろされていた。
ひんやりとした刃先を顎に感じ皮を剥がれるような感触と共に、世界のすべては暗黒となった。
俺が今際の際に見た光景は。俺の顔の皮? を男の顔の上にのせ、それをべろべろと舐めまわしているオバサンの、恍惚とした表情だった。
ああ……
了
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