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ディープブルー・クリスマス
予約時間の16時半に、大きな赤いバケツを受け取った。チキン8ピースとグラタン、イチゴのレアチーズケーキのセット。完全予約制なのに、少し待たされた。同じように店内で待つ客達の顔は誰も彼もが和やかで、心に雨雲を抱えていたのは、きっと私だけだったろう。
「寒っ……」
呟くと尚更惨めになる。凍てついた北風に身を縮め、アパートの部屋まで視線を落として急ぐ。
のり巻き、食べたい。おでんと、ポテチと、サイダーも。
アパートの隣のマンション1階に入っているコンビニのドアを潜り、青いカゴを手に取る。目に付いた少しお高いチョコを入れて、お目当ての助六寿司のパックに、のりしお味のポテチの大袋。1.5lのサイダーと500mlのメロンカルピス。結局、おでんは止めた。代わりに肉汁たっぷりの特製肉まんを2つ。
エコバッグをパンパンにして、会計を済ませる。
きっと君は来ない 1人きりの……
ああ、嫌だ嫌だ。聞きたくない。
少し前まで好きだった定番のクリスマスソングが憎らしい。店内の浮かれた雰囲気を背に自動ドアを出れば、白い欠片がピチャリと鼻先を濡らした。部屋に着くまで、空は持たなかった。
鍵を回して、暗くて冷え切った部屋に駆け込む。灯りを点けて、カーテンを引いて、備え付けFF式ストーブに点火する。コタツの天板にバケツとエコバッグをドンと置き、ダウンジャケットを脱がずにコタツに入って、スイッチを押す。
だらしない。だけど、もう取り繕う理由もない。
本当は、勇真と過ごすつもりだった、クリスマスイブ。ロマンチックなデートをして、寄り添って夜を迎える筈だった。
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