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結婚歴なし独身、友人がいなくても生きていけるし、職場の同僚を仲間だと思ったこともない。――そんな私の心の中には、自分でも開くことのできない扉があった。
ある日、何の前触れもなく唐突に、自分の心の中にある重く閉ざされた扉は開いた。私は『不思議の国のアリス』だってびっくりの、「キラキラの国」の “住民票” を手に入れたのだ。――扉の向こうは、今まで知らなかった物や事であふれかえり、キラキラした人たちがいっぱいいた。友達があっという間に増えていった。嬉しかった。
しかし、しばらくして私は気づいてしまった。
ありえない肌の質感と大きな目を持つ女性がやたら多いことに。
私と友達になりたがるのが、男性と、自分の商品やサービスを誰でもいいから買ってほしい人ばかりだということに。
私が自力で必死になって作ったインテリアなんかより、真似っこで出来合いのインテリアと猫を自分の家に置いておく人の方が人気のあることに。
――キラキラの世界には、嘘つきとお馬鹿さんしかいないんだ!
私は「キラキラの国」を去った。でも、“住民票” は残しておいた。「キラキラの国」の “王” は、公正で優秀な統治者であることを私は人から聞いていて、それを信じていたからだ。
「キラキラの国」を去って数か月、嘘つきでお馬鹿さんだったのは私だと気づいた。公正で優秀な “王” はまた、きれい好きでもあるのだと、私は悟ったのだ。私の家は、自分がまず居心地がいいような整理整頓ができていなかった。
私は戻ってすぐに自分の家を掃除した。住人になったばかりの頃に自分の家に置いたキラキラしたものはすべて、部屋からどかした。それらは、時間が経ってすでにほこりにまみれ、あちこちメッキが剥げていた。そのかわりに、わずかな数の白木の調度を部屋に置き、毎朝玄関を箒(ほうき)で掃いて道行く人に声をかけた。家を訪れる人には、自分の知っている昔の物語を語って聞いてもらうことにした。
友達は減った。だが、質素な家で昔語りを聞くのがいいんだという人が、私と友達になるべく家を訪れるようになっていた。その人たちは皆、それぞれの家の前に音もなく出現した道しるべに従って、私の家まで来たそうだ。
今、私の友達は、国で作ることが許されている友達の100分の1しかいない。お金もほとんど入ってはこない。それでも、私は満足だし、幸せだ。
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