ひとりたび

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「はあ…」 目の前に立ち塞がる山積みの資料を見て、彩は深いため息をついた。先ほどまで彩の身体を支配していた集中力は何処かへと抜けて行き、体に力が入らない。彩はだらんと椅子にもたれかかった。長時間のデスクワークでたまりにたまった肩や腰の痛みがじんわりと広がっていくのを感じる。 「やっと終わった……」 時刻は23時。観たかったドラマの時間はとうに過ぎ、人工的な色をした外灯が街を照らしているのが窓からでも分かる。また今日が終わっていく。彩はのろのろと帰り支度をしながら、本日何度目か分からないため息をついた。  大人になったら、もっといろんなことを器用にこなせるようになる。そう思って、いろんなことを一生懸命やってきたはずだった。勉強だって得意ではなかったが、将来役立つことを信じて、大学まで頑張ったし、容量がよくなるように生徒会活動やボランティア活動にも積極的に参加した。いつか仕事の出来るステキな女性になるんだ、そう思って。しかし、現実はそんなに甘いものではない。社会人になって三年経った今、私は昔と何一つ変わっていない。昔と変わらず不器用で、仕事のミスは多いし、一つ一つの仕事に時間がかかる。そのせいかよく上司には怒られるし、残業だってほとんど毎日だ。周りを見ると、仕事をしながらも趣味を楽しんでいる人、大変そうな仕事もささっとこなしてしまう人もいるのに。嫌になっちゃう、彩は下唇をぎゅっとかみしめた。涙がぼろぼろと溢れていきそうになる。彩は、常夜灯のかすむ廊下を逃げるように駆け出した。              
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