ひとりたび

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雲ひとつない空はどこまでも高く、青い。深い緑色をした山々が、町を優しく見守っている。高岡市で毎日、目にしていた無機質な高層ビルとは無縁なカラフルなトタン屋根の家があちらこちらに見える。 のどかな休日に高岡市から電車とバスに揺られること約三時間。彩はようやく岐阜県の古川駅に着いた。ついに来てしまった、彩は辺りをきょろきょろと見回しながら思った。以前、映画のロケ地としても使われたこの駅は自然にかこまれた居心地のよいところであった。豊かな自然によって育まれた澄んだ空気は、彩の心を弾ませる。学生の頃に戻ったように体が軽い。ぐんぐんとエネルギーが広がっていく感覚がくすぐったくて、彩は、ふふっと笑い、時計を見た。時刻は午前十時、キラキラと光る太陽がまぶしい。せっかく来たんだ。思いっきり楽しむぞ、彩は心の中でそう呟いてパンフレットをぎゅっと握りしめた。 
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