ひとりたび

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それから彩は、古川市を中心とした飛騨の観光を始めた。瀬戸川でひらひらと赤と白の衣をなびかせて泳ぐ鯉にみとれたり、街を見渡すことのできる神社でお詣りをしたりした。思いの外、彩がこの街でしたいことは山のようにあった。だが、のだかでゆっくりとした時の流れている飛騨では、したいことの多さに慌てず、自分のペースで自分のペースでのんびりと行きたいところを回ることができた。おおらかで笑顔の絶えない飛騨の人々のペースに乗せられて次第に彩も、にっこりと笑うことができるようになってきた。  それから時はあっという間に過ぎた。空には淡い桃色と橙色の雲がぼんやりと浮かび始めている。昼間とはうって変わり、ほわんと丸くなった日差しが民家を茜色に染めていく。何処からか聞こえてくる夕焼け放送が懐かしい。そろそろ、帰らないと。でもせっかく来たんだし、ご飯を食べて帰ろうかな。スマートフォンを片手に彩は思った。ひだ、ふるかわえきしゅうへん、おいしいたべもの。そうぶつぶつ呟きながら、スマホと睨めっこをしていると、彩の嗅覚をある匂いが刺激した。醤油の焦げたぱりんと宿泊学習で食べたご飯のような香ばしい香り。彩は顔を上げて、きょろきょろと辺りを見渡した。おぉ、これはすぐ近くからする匂いだ。もしかしたら、おいしいものがあるかもしれない。わくわくとしてきた彩は、鼻をすんすんとさせて、香りの方へと歩き出した。
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