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2.女子高生、天蓋つきのベットで目覚める
目が覚めると、天涯つきのベットでした。
こんなにふかふかとした寝床で寝るのは何年ぶりでしょうか…?
素敵なベットで寝られるなんて、いい夢を見るものです。
私は、『本田 夏蓮』一介の女子高生。
特技はお菓子づくり、休日の過ごし方は専らバイト。
両親が他界してから、親戚の仕送りをもらいつつ弟と二人暮らしをしています。
「お嬢様が起きたわ!」
周りがなんだかさわがしく、ホワイトブリムをつけたメイドが泣いています。
メイドなんて、秋葉原以外にもいるんですね。
それにしても、お嬢様って呼ばれる夢を見るなんて小説の読みすぎでしょうか?
でも、素敵な夢…
今日のバイトは午後から、もうちょっと寝ててもいいはずです。
「お嬢様!お支度の時間です!」
メイドの一言で、くるくる駒のように回されて着飾らせられます。
気分はお洋服屋のマネキンです。
そして、次の瞬間、私はこれが夢ではないことを確信しました。
コルセットが…コルセットが苦しい。
よく、夢の中で頬をつねりますが、それのすごいバージョンです。
髪を整えるためドレッサーに座った時、初めて今の自分の姿が見えました。
腰まである金髪は先端に行くにしたがってウェーブがかかり、猫の背のような優美な曲線を描いています。その髪に三方をおおわれた白い顔には、ルビーのような紅い瞳が煌めいていました。
綺麗だけど、近寄り難い美しさがあります。
この髪を切って売ったら、数日食費が浮きそうです。
「どうしてこんなにしっかり支度をしているのですか?」
髪を結ってくれているメイドに探りをいれます。
メイドは不振そうな顔をしつつも答えてくれました。
「お嬢様は公爵令嬢であらせられます。これでも地味なくらいです。それに…」
「それに?」
「シルヴィオ殿下がお見舞いにいらっしゃるそうですから。」
…シルヴィオ、その名前は聞き覚えがあるような…?
心のグー○ルに尋ねます。
しばらく、悩んでいるうちに支度が終わりました。それでも、答えはでません。
まるで、起きてから夢の内容を思い出すような…
「カレン?何を考えているんだ?」
「シルヴィオ王子ってどこかで聞いたことあるんですよね。」
「俺のことを考えてくれていたのだろうか?元とはいえ、婚約者冥利につきるな」
「はぁ…え!?」
そこに立っていたのは冷たい銀色の髪にアイスブルーの瞳の美しい青年でした。
質のいい服を纏いながらも派手すぎない風合いは、どことなく所在なさげで母性本能をくすぐります。
「どうしたんだ?カレン?」
…思いだしました!
彼はシルヴィオ。プロメリア王国の第四王子。
最近私が読んでいるネット小説の「転生聖女、プリンス達に溺愛される」通称「せいプリ」
の登場人物です。
「なんと…まぁ…こんなことって本当にあるんですね…」
人間驚きすぎると、言葉にでないものです。
そして、先ほど見た自分の容姿、婚約者というシルヴィオからの言葉から推測するに…
(私、異世界に転生してしまいました!しかも、悪役令嬢、カレン・オルコットに!)
高校生になってからバイトや弟の世話で、友達がなかなかできなかった私は、ネット小説の世界にどっぷりつかりこみました。
数々の作品が無料で読めるのです!
まさに天国!
その中でも更新頻度が高く、作者の情熱が伝わる作品が「せいプリ」です。
~転生したら、国を救う聖女としてあがめられる世界。そこに転生してしまった女子高生が、たくさんの王子様達にひたすら溺愛される話~
と、要約するとこれだけなのですが、とにかく色んな王子が出てくるので、飽きさせません。
シルヴィオはその中の一人。
カレンという、気が強い婚約者がいて主人公になかなかなびきません。
そんな物語の邪魔者たるカレンを昨日の最新話で主人公が断罪したのですが…
「まさかそのカレンになってしまうなんて…」
「俺の話を聞いていないようだし、さっきからぶつぶつと、頭、大丈夫か?」
一瞬喧嘩を売られたのかと思いました。でも、小説を読んでいて、確かシルヴィオはちょっと天然というか、抜けているところがあるように感じたのを覚えています。
「シルヴィオ様、ご心配ありがとうございます。頭は打っておりません。」
そう言うと、シルヴィオの表情が緩みました。微々たる変化ですが…正解のようです。
「そうか、良かった。…先ほどがら言っているが、カレン。君が聖女様をいじめたなんて、あり得ないと思っている。
君のことは長年、兄弟のように見てきたが、そういう陰湿なことができるほど器用じゃない。そうだろう?」
「!」
驚きです。てっきり、シルヴィオはカレンのことを疎ましがって、婚約を解消できて喜んでいると思っていました。少なくとも小説ではそういうふうな印象をうけました。
「一昨日の夜、俺がいない舞踏会で、聖女様への嫌がらせの開示があり、君の断罪まで事が進んでいた。何があったんだ、教えてくれ。」
そんなことを言われても、私はカレンではなく、夏蓮なのでお答え出来ないのですが…
「………」
「答えられない…か…。君らしくもない。
とにかく異国…氷の大地への出立は一月後に延期になった。それまでに、どうにかしないと、カレン・カチコッチになるぞ。」
冗談…なのでしょうか?はてさて、一月後までに身の潔白を表明しないと、いけません。
「…シルヴィオ様、協力して下さい。私がカチコチにならないために。」
でも私、過去のことは小説でしか知りません。
前途多難です。
カレンさん…助けてくださーい。
そう言えば、悪役令嬢物ものって、元の悪役令嬢の人格ってどうなるのでしょうか?そもそも小説の中の登場人物の人格っていったい?
なんとなく、死んでたら嫌だなと思いました。
小説の頃からカレンは嫌いではなかったので、生きてたらいいなと思います。
意外と、私のもとの体に入って「本田 夏蓮」として生活しているのかもしれませんね?
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