最終話 終わらない旅

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 清虎は驚き過ぎて声が出ないようだった。目を大きく見開いて、陸の顔をまじまじと見つめる。 「ご、ごめん。本当はもっと早く言いたかったんだけど、座長さんに口止めされてて」 「親父に? 何でまた。兄貴、どういうこっちゃ」  理解が追い付かず、苛立ったように清虎が獅凰(しおう)を睨んだ。  獅凰はそれを無視して重たそうな段ボールを地面に置き、「秘密を守れて良い子だねぇ」と陸の頭を撫でる。清虎が舌打ちしながらその手を払った。 「気安く触んなや」 「お前、この子と役者を天秤にかけただろう」  突然、獅凰に鋭い視線を向けられて、清虎が息を呑んだ。 「お前の変化に気づいてないとでも思ってた? お前がどんな答えを出すのか興味があってね。この子が劇団に入るって先に知っちまったら、お前は葛藤しないだろう。だから黙ってて貰ったんだ。もし役者を捨ててこの子を選んだら、お前も一緒にここに置いてくつもりだったよ」  声の調子は厳しいが、獅凰は満面の笑みを浮かべている。清虎を三倍くらい手強くした感じだなぁと、陸は首をすくめた。 「え。ホンマに? ホンマに陸、うちの劇団員になったん? 今勤めてる会社はどないすんねん」 「もう辞表は出してあるよ。引継ぎがあるから、あと半月は通うけど。深澤さんに『今からでも遅くない』って言って貰えて、決心したんだ。清虎について行くって打ち明けた時は驚いてたけどね」    清虎はポカンとしていたが、徐々に実感が沸いてきたらしい。頬が紅潮し、目が潤んでいる。 「い、家の人は? こんな不安定な暮らし、反対されたんとちゃう」 「ううん。大衆演劇の裏方をしたいって言ったら、すんなり『いってらっしゃい』って。特に兄ちゃんは、やりたいこと見つけられて良かったって応援してくれた。まぁ、ちょっと寂しそうではあったけど」  はにかむ陸を見ながら、清虎が自分の頬を思い切りパチンと叩いた。驚いた陸が、慌てて清虎の頬をさする。 「ちょっと清虎。役者の顔に何してんの」 「だって、夢かも知れんやんか」 「夢じゃないよ。ほら」  陸にぎゅっと腕をつねられて、「痛ッ!」と清虎が声を上げた。 「ホンマや、めっちゃ痛い。夢やないねんな。ちょっと嬉し過ぎて、どないしよ」 「お前達、遊んでないでさっさと運べよ」  呆れ顔の獅凰が、声を掛けながら階段を上って行った。
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