最終話 終わらない旅

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 十月最後の日の朝。  良く晴れた空の下を、二人は劇場に向かって歩いていた。 「本当に忘れ物はない?」  スーツケースを転がす清虎に向かって、陸は最終確認をする。 「大丈夫やで。そもそも忘れるほど荷物もないしな」  清虎の口数が少なく機嫌が悪そうに見えるのは、寝起きだからか、それとも別れが寂しいからか。あるいは、両方かもしれないなぁと、陸は清虎の横顔を眺めた。 「鷹雄(たかお)さん、おはようございます」  劇場の裏手で清虎の祖父の姿を見つけ、陸は頭を下げる。 「ああ、二人ともおはようさん。なんだ清虎、仏頂面して」 「別に。いっつもこんな顔やろ」  清虎は素っ気なく答え、階段の下にスーツケースを置いた。 「トラックはもう来んの?」 「ああ、八時には到着する予定だよ。しかし、あれだねぇ。こうしてると前回の時を思い出すね。あん時ァ清虎が泣いて泣いて大変だった。移動中ずっと泣き続けたもんだから目が腫れちまってさァ。舞台に穴開けたのは、後にも先にもあの日だけだったな」 「前回?」  陸が驚いて問い返す。それはつまり、運動会の日のことだろうか。 「じぃちゃん余計なこと言うなや。陸、聞かんでええで」  顔を真っ赤にさせた清虎が陸の耳を塞いだ。鷹雄は「ハイハイ」と清虎の文句を聞き流し、劇場の中に消えていく。 「そんなことがあったんだ。……ごめん」 「もうええねん。いつの話しとんねんな。今回はちゃんと陸に見送って貰えるんやから、全然平気やで。二度と会えんわけでもないしな。ほら、さっさと上から荷物降ろしてまお。手伝ってや」  清虎が外階段に足を掛けたところで「あれぇ?」と上から茶々を入れるような声がした。見上げると、清虎によく似た男性が段ボールを抱えて笑っている。 「その感じだと、まだ清虎は知らなそうだね」 「なんやねん、兄貴まで。俺が何を知らん言うねんな」  憤慨する清虎の後ろから、陸がぺこりと頭を下げた。 「獅凰(しおう)さん、おはようございます」 「うん。おはよう、新人さん」 「新人? 誰が」  清虎がキョトンとしている姿を可笑しそうに見ながら、獅凰が階段を降りてくる。 「お前の後ろにいる、その子だよ。今日からウチの団員だ」
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