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「清虎かぁ。面白い子だね、一瞬で馴染んじゃった」
すぐ後ろの席の哲治に向かって、陸が笑いかける。着席してもなお、歓声に応えるように両手を振り続ける清虎を見て哲治も笑った。
「才能だよなぁ。先祖代々浅草から出たことない俺には、転校なんて想像も出来ねーや」
「うちもそうだよ。商売やってたら、ずっと浅草にいるもんね。ちょっと憧れるよなぁ、転校とか。俺、大人になったら他の町に住んでみたいな」
「えっ」
哲治が驚いたように目を見開いたので、陸も思わず「えっ?」と聞き返した。自分はそんなに意外なことを口にしただろうかと首を傾げる。
「陸は実家のお茶屋は継がないの?」
「実家は兄ちゃんが継ぐだろうし、俺は自由じゃない?」
「でも、店を手伝ったっていいじゃん。わざわざ家を出ることないだろ。他の町に住んでみたいなんて簡単に言うなよ」
「そうだけど……。まだ先の話だよ、なんでそんなムキになんの」
ちょっとした願望を言っただけなのにと、陸は口をへの字に曲げて黒板の方へ向き直った。語気を強めた自覚のある哲治は「ごめん」と、前を向いてしまった陸の背中に小さく告げる。
始業式の一日などあっという間だった。
宿題の提出と退屈な全校集会さえ終えてしまえば、後はもう放課後だ。解放感で浮かれた騒がしい教室で、清虎は「ハイ、注目」と言って手を叩く。
「なぁ、誰か花川戸方面にバスで帰る子おらん? 俺まだ帰り道よーわからんねん」
「私、一緒に帰ってあげようか? 何ならそのまま浅草案内するよ!」
いち早く呼びかけに反応したのは、リーダー格の女子だった。清虎の目の前でぴょんぴょん飛び跳ねるたびに、ショートボブの髪も揺れる。彼女が名乗りを上げてしまっては、もう他の誰も余計な口は挟めなかった。
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