逃避行

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 あの日逃げ出した君の足跡(あしあと)を、無意識に探している私がいる。  ブラウンカラーのコートを羽織(はお)って、マフラーに手袋と完璧な防寒(ぼうかん)状態の私は、アパートから出て広がった雪景色と、その雪道を踏み荒らした足跡に見とれていた。  そして、その中には不思議な足跡もあった。  現実じゃない神秘的にキラキラと輝く様々な足跡、中には裸足(はだし)のものもある。それらがあらゆる方向に歩みを進めている。  私はそれらの光る足跡を無視して真っすぐ進み始めた。  ホワイトクリスマス。今年は、この日を祝福(しゅくふく)するかのように大雪が吹いて街を白く()めた。もうじき夜が来る。そうしたらまた雪が程よく街を(かざ)るらしい。  大学のサークルの仲間たちがそのことを(はや)し立てるようにメッセージを送ってきた。「こんな特別な日だぜ、ちゃんとゴムは買っていけよ」。その言葉のせいだろうか。今日はやけに足跡が多い。  それが意味するのは、今私がとてつもなく『逃げ出したい』という感情に囚われているということだった。  この足跡は、私だけが見える『逃げ切った人たち』の足跡なのだから。そして、いつも私はこの足跡から探してしまうのだ。センター試験の会場に行く電車。降りるべき駅に降りず行方を(くら)ませた、峡谷(きょうこく)カスミ。幼馴染である、彼女の足跡を。
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