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私って、いま『藤堂悠夏』なんですけど、もしやこれから『二条悠夏』になるんですか?
私の両親への挨拶が終わった翌週、キッチンでピクルスを漬けながらハッとなった。
「……………、」
カチャンッと菜箸を置いて、リビングのテーブルの方に駆け寄る。手にはボールペンとメモ帳。
だって、
だって、してみたいじゃないですか。
二条の苗字と私の名前を合わせたら、どんな感じなのか。書いてみたいじゃないですか。
今までの『藤堂悠夏』は、なんていうか、苗字の画数が多くて“どっしり!”って感じだったけど、
わ、わ、わ…
にじょう、はるか。
紙に書いて見て、しげしげと眺める。
二条 悠夏。
なんだか、私なのに私じゃないみたい。
なんか、なんていうんでしょう、胸がちょっぴりソワソワしてしまって、
なんかっ、…ふふふっ。
名前を見て、自然と緩む頬。
後ろで、先生が覗き込んでいるとも知らずに。
「私との結婚を心待ちにしていらっしゃるという解釈で良いですか?」
「!!!!!!」
慌てて紙を隠そうとしたけど、時すでに遅し。先生はサッと紙を私から取り上げて、ククッと悪戯っぽく笑っていた。
「先生!!返してください!」
「『二条悠夏』。…こうやって見るとなかなか座りがいいじゃないですか。」
「~~~~っっ!!」
なんっか、恥ずかしいんですけど!!!!
私がときめいてるの丸わかり状態で!!!!!
「ちょっと書いてみただけです!!!」
「はいはい。心ゆくまで書いてください。」
「先生!!!」
憤慨する私に余裕の視線を投げつつ、フワッとソファに座る先生。
そして、こちらを見上げてきた。
「一応、どちらの苗字にするのかちゃんと貴方と話し合おうと思っていました。
旦那の姓になるのが一般的ではありますが、貴方も『藤堂』に愛着があるでしょうし。」
へ?
なんか全然そこまで考えなかったです。
当然、二条になるものだと。
「はぁ…、」
私が気の抜けた返事をすると、二条先生はゆったりと笑った。
「名前は大事なものです。
“名”は両親から子への最初の贈り物。そして“苗字”は、今までその家を絶えることなく繋いできた証。先人達がいなければ『藤堂悠夏』は存在しません。簡単に手放せるものではありませんよ。」
なるほど…。
先生の言った言葉に思わず納得してしまう。先生、普段の言動はアレですが、ちょいちょい深いことを言います。
私は小さく頭を下げた。
「お気遣い、ありがとうございます。うちの両親も苗字に関しては『二条』になることで納得しています。」
「分かりました。」
コクリと頷いた先生。
そしてもう一度私の方を見る。
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