結婚いたします。

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へぇ~…… 恥ずかしがりつつも淑やかにはにかむ沙奈恵さんは、見違えるほど綺麗だった。 たぶん、これが本来の沙奈恵さんの姿なんだろうな。この人、元々は由緒正しい呉服屋のお嬢さんですもんね。そりゃ品もあるし、着物の着こなしも完璧なはずですよ。 そして何より髪が凄い。青みがかったような艷やかな黒髪で、こう言うのなんて表現するんでしたっけ… って、待てよ。 私の思考回路、キキッと急ブレーキ。 沙奈恵さんがお母様にいびられなくなったってことは、お母様は絶賛いびれる相手募集中なわけで、「長男の嫁が駄目なら次男の嫁をいびればいいじゃない♡」ってなってないですよね? なってないですよね!!??? 「何を玄関でもたついてるんだ。」 私が固まっていると、奥から尊さんもやって来た。二条先生はヘラッと薄笑いを浮かべる。 「こんにちは兄さん。」 「その薄笑いやめろ。」 ピシャリと言い切った尊さんは、私の方を見下ろした。 「ようこそ、悠夏さん。どうぞお上がりください。母も待ってます。」 う゛っ、心臓が。 心臓がバクバクします。お母様いるんですね、そうですよね、そりゃそうですよね、終わった。 隣を見ると、二条先生は相変わらず平然としていて、なんでですか、あれですか、言い負かす自信がおありなんですか、自分の母親ぐらい何とでもできるという余裕がそうさせてるんですか、私さっきから胃が痛いんですけど。 「お、お邪魔します………。」 “観念した”という表現がぴったりの状態で、私は家の中へ。 あー、怖い、あれでしょう?部屋に行ったら、きらびやかに着飾ったお母様がデーーーンッと待ち構えてるんでしょう? ああ、胃がシクシクしてきた… 「お入りください。」 先導する沙奈恵さんが広めの和室に通してくれた。 その部屋は、明るい日差しで障子が白く輝き、イグサの爽やかな香りがふわりと鼻をくすぐり、床の間には掛け軸、そして立派な生花が飾ってあります。 違棚には綺麗な翡翠の香炉が置いてあり、部屋の中央には漆塗りの一枚板の座卓が。 そして、その座卓の上にはタブレットがポンとおいてあった。 あれ、お母様は????
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