2992人が本棚に入れています
本棚に追加
/268ページ
「あの、お母様は…?」
私がおずおずと訊ねると、尊さんが部屋に入ってしれーっとタブレットを指差す。
「母ならそこに。」
いや、そこってタブレット端末があるだけですけど。しかも画面真っ黒。
いまいち状況が掴めない私の隣で、二条先生がクスクスと小さく笑った。
「兄の説得で、母はオンライン参加になりましたよ。」
「はい!!??」
オンライン参加!!?どゆこと!!?
ぎゅいんっっと尊さんの方を見上げれば、尊さんは真顔でタブレットを見下ろしていた。
「…ま、コロナ禍なので。母には金沢の別荘に行ってもらっているのですが、東京はコロナで危ないから戻ってこなくていいと言いました。」
えええええ!!?
そういえば前、尊さんはお母様に「金沢の別荘で大人しくしてろ」って言ってたけど、あれからずっと金沢に滞在させてるってこと!??
私が目を丸くすると、尊さんはこちらに視線を向けた。
「これであれば悠夏さんも多少は気が楽になるかと。もし母が何か騒ぎ始めたらこちらから接続を切ります。」
すごい、そんな恐ろしい展開にならないことを願いたい。
っていうか、先生一言もそんなこと言ってませんでしたよね!!??
「先生っ、私聞いてませんよ!?お母様がいないだなんて!!いるって言ったじゃないですか!」
ムッとする私を見て、先生はククッと顔を歪めて笑った。
「だっていますから。タブレットで。」
「〜〜〜っっ!!!!」
そ、それはそうなんですけども!!
こんな展開予想できないでしょう!!
とはいえ、この場にお母様がいないというのはかなりありがたいこと。
尊さん、ありがとうございます。
「相当戻りたがったんじゃないんですか?」
二条先生がこういうと、尊さんはぐったりとため息をついた。
「当然だろ。説得するのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。」
「さすが兄さん、これからも宜しくお願いします。」
「黙れ。」
尊さん、こんな弟さんで大変だろうなぁ。
…私、その人と結婚しようとしてますけども。
最初のコメントを投稿しよう!