結婚いたします。

7/23
2992人が本棚に入れています
本棚に追加
/268ページ
「あの、お母様は…?」 私がおずおずと訊ねると、尊さんが部屋に入ってしれーっとタブレットを指差す。 「母ならそこに。」 いや、そこってタブレット端末があるだけですけど。しかも画面真っ黒。 いまいち状況が掴めない私の隣で、二条先生がクスクスと小さく笑った。 「兄の説得で、母はオンライン参加になりましたよ。」 「はい!!??」 オンライン参加!!?どゆこと!!? ぎゅいんっっと尊さんの方を見上げれば、尊さんは真顔でタブレットを見下ろしていた。 「…ま、コロナ禍なので。母には金沢の別荘に行ってもらっているのですが、東京はコロナで危ないから戻ってこなくていいと言いました。」 えええええ!!? そういえば前、尊さんはお母様に「金沢の別荘で大人しくしてろ」って言ってたけど、あれからずっと金沢に滞在させてるってこと!?? 私が目を丸くすると、尊さんはこちらに視線を向けた。 「これであれば悠夏さんも多少は気が楽になるかと。もし母が何か騒ぎ始めたらこちらから接続を切ります。」 すごい、そんな恐ろしい展開にならないことを願いたい。 っていうか、先生一言もそんなこと言ってませんでしたよね!!?? 「先生っ、私聞いてませんよ!?お母様がいないだなんて!!いるって言ったじゃないですか!」 ムッとする私を見て、先生はククッと顔を歪めて笑った。 「だっていますから。タブレットで。」 「〜〜〜っっ!!!!」 そ、それはそうなんですけども!! こんな展開予想できないでしょう!! とはいえ、この場にお母様がいないというのはかなりありがたいこと。 尊さん、ありがとうございます。 「相当戻りたがったんじゃないんですか?」 二条先生がこういうと、尊さんはぐったりとため息をついた。 「当然だろ。説得するのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。」 「さすが兄さん、これからも宜しくお願いします。」 「黙れ。」 尊さん、こんな弟さんで大変だろうなぁ。 …私、その人と結婚しようとしてますけども。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!