結婚いたします。

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「本来であれば父と母がこの場いるべきだとは思いますが、父が他界し母がアレなので、代理として現当主である私と、その妻の沙奈恵が同席します。構いませんか?」 尊さんは私の方を見て事務的に話を進める。 今はこんなに取っ付きにくそうな感じですけど、あれでしょ、沙奈恵さんと二人きりになるとどうせ違うんでしょ。 「構いません。むしろありがとうございます。」 私が小さく会釈すると、沙奈恵さんが「ではお茶をご準備しますね。」と席を立った。 程なくして運ばれてきたのは、涼やかなガラスのグラスに入った冷たい煎茶と華やかな上生菓子。沙奈恵さんは品のいい所作でそれを座卓に並べる。 「どうぞ、季節のお菓子です。水牡丹っていうんですよ。」 並べ終えた沙奈恵さんは、お盆を抱いてふわっと優しく微笑んだ。 うわ〜…綺麗。それに可愛い。 「お菓子を食べて少し落ち着いたら母に連絡します。」 尊さんの言葉に、心がピキキッ。 これ食べ終わったらいよいよお母様のお出ましなんですね、どうしよう一生食べ終わりたくない。 「挨拶なんてさっさと済ませましょう。」 一方の二条先生は、こう言って平然とお菓子をパクリ。ほんっとにこの男は〜〜〜っっ。 「そうだな。こっちもお前たちに話したいことがある。」 尊さんも尊さんで、落ち着いた様子でお菓子をパクパク。ここの兄弟、結婚の挨拶というものをめちゃくちゃ軽く考えてません?? ていうか、話したいことってなんですか。 「……はぁ、」 ひとりだけどんよりした気持ちでお菓子を口に運んだ。美味しゅうございます。 こんな小さなお菓子、どんなにチマチマ食べても4〜5口で終わるので、みんなものの5分で完食。会話を楽しんだりすればもっとかかったかもしれないけど、そんなことできるならこの兄弟はこんな年齢になるまで仲違いしてません。 「じゃあ母さんに繋ごうか。」 お茶を飲んでから、尊さんがとうとうタブレットを手に取った。 あーーあーーーあ゛ーーーーーーーっ。 いよいよあのお母様がぁあ〜〜〜〜〜〜っっっ。 うなだれる私を見て、沙奈恵さんが小声で「ファイト…!」って言ってきました。 無理です、絶対嫌味言われる。 尊さんはササッとタブレットを操作して、座卓の上のスタンドに立てた。 ヤダなヤダなヤダな、もうほんとヤダな、胃がキリキリする、ええいもう、なるようになれ……! そう思った瞬間、タブレットにお母様の顔が映った。 そして。
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